ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

ペトルーシュカ日本初演プログラム

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ペトルーシュカ日本初演プログラム
 ディアギレフのバレエ・リュスが1911年に初演した『ペトルーシュカ』は、1944年に上海バレエ・リュスで東洋初演されました。ペトルーシュカを踊ったのは小牧正英。彼は1946年に帰国後小牧バレエ団を立ち上げ、1950年に『ペトルーシュカ』の日本初演を果たしました。その時のプログラム冊子の内容は次の通りです。占領期のためか、裏表紙裏にプログラムが英文で記載されていました。

小牧バレエ団秋の大作公演

 有楽座、1950.11
 16p (Yurakuza No.72)
内容:

小牧バレエ団秋の大作公演 ……1

魔笛』序曲…モーツアルト
 演奏 東宝交響楽団
 指揮 M.グルリット
バレエ『牧神の午後』…ドビュッシィ曲
 演出振付 小牧正英―ワスラフ・ニジンスキーに依る―
 美術 三林亮太郎―レオン・バクストに依る―
グランド・バレエ『ペトルウシュカ』1幕4場…ストラヴィンスキィ曲
 昭和25年度文部省芸術祭バレエ公演
 演出振付 小牧正英―ミハイル・フォオーキンに依る―
 美術 三林亮太郎―アレキサンダー・ブノアに依る―
 衣裳 吉村倭一
 照明 小川昇
 舞台監督 池田義一
 演奏 東宝交響楽団
 指揮 M.グルリット 高田信
1950年11月17日―27日
 4時・6時半2回(初日6時半1回)
 税共料金 150円 250円

『牧神の午後』[あら筋]
 牧神 小牧正英  ニンフ 広瀬佐紀子 ほか

  • ペトルウシュカ」の鑑賞 / 光吉夏弥 ……2
  • ストラヴィンスキイと「ペトルウシュカ」 / 深井史郎 ……4
  • ペトルウシュカ』余談 / 大田黒元雄 ……5
  • 古典バレエと近代バレエ:「白鳥の湖」と「ペトルウシュカ」の対比 / 牛山充 ……6
  • ペトルウシュカ』[配役、あら筋] ……8
  • 戦後に於ける小牧正英演出振付による本邦初演のバレエ作品 ……8
  • 小牧正英小論 / 佐藤寅雄 ……11
  • アレクサンドル・ブノアの芸術 / 三林亮太郎 ……12
  • [出演者]関直人、広瀬佐紀子、笹本公江、太刀川瑠璃子、岸清子、日高惇、沢田知路 ……13
  • 上海ライセウム劇場上演の際の現地各新聞紙評 ……14
  • ペトルウシュカ」の稽古風景 / 渡邊武一撮影 ……15
  • 広告 ……16
  • [英文プログラム] ……[17]

芳賀直子『バレエ・リュス その魅力の全て』

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芳賀直子『バレエ・リュス その魅力のすべて』
 1909年から1929年まで存在した「バレエ・リュス」について、全体像と個々の作品、関わった人々、解散後の歩み、など多面的なアプローチで紹介した著作。ディアギレフの誕生からバレエ・リュス解散までの詳細な年譜、14ページにわたる主要参考文献、人名と作品名の索引付。著者はバレエ・リュス、バレエ・スエドワを専門とする舞踊研究家。

バレエ・リュス その魅力の全て / 芳賀直子

国書刊行会、2009年9月
409, 19, xiv, 7p ; 22cm
目次:
バレエ・リュス ダンサー・アルバム …巻頭

第1章 バレエ・リュス:奇跡のバレエ団 …9

  バレエ・リュス=「ロシア・バレエ団」/正式名称をもたないツアリング・カンパニー/ロシアで公演したことのないロシア・バレエ団/西欧で愛されたバレエ団―パリ、ロンドン、モナコ/ディアギレフという中心/バレエ・リュスの結成まで/オリエンタルからアヴァンギャルドまで/バレエ・リュスを支えた人々/バレエ・リュスのライバル達/恋人の変化=作風の変化/ディアギレフの死とバレエ・リュス解散

第2章 天才を集める天才:セルジュ・ディアギレフ …53

  1909年、結成までの歩みを追って/生い立ち-幼少期から大学でのブノワとの出会い、バレエとの出会い/グランドツアーからロシアでの活動-展覧会主催、『芸術世界』創刊/ロシア帝室劇場特別任務要員に、そしてバレエ《シルヴィア》の失敗/活動は西欧、パリへ―ロシア美術展、ロシア音楽祭、そしてオペラ《ボリス・ゴドゥノフ》/バレエ・リュス活動中のプライベート-ホテル住まいとヴァカンスと交友録/ディアギレフの魅力と限界

第3章 スターたち・振付師たち …89

  変化の時代に/スターたち・振付家たち:ミハイル・フォーキン、ワツラフ・ニジンスキー、レオニード・マシーン、アントン・ドーリン、セルジュ・リファール、ブロニスラワ・ニジンスカ、ジョルジュ・バランシン

第4章 全作品紹介 …145

  全作品を、作品傾向ごとに/ロシア帝室バレエの伝統:饗宴、白鳥の湖、蝶々、眠れる森の美女、ジゼル/ロシアを描く:ポロヴェツ人の踊り、火の鳥サドコペトルーシュカ、金鶏、真夜中の太陽、キキモラ、ロシア物語、道化師、狐、結婚、禿山の一夜、鋼鉄の歩み、オード/革新的な作品:レ・シルフィード、薔薇の精、牧神の午後、遊戯、春の祭典ティル・オイレンシュピーゲル「オリエンタル」な作品クレオパトラシェエラザード、レ・オリエンタル、青い神、タマール、ラス・メニナス、三角帽子、ナイチンゲールの歌、クァドロ・フラメンコ/ギリシャ神話作品:ナルシス、ダフニスとクロエ、ミダス、ゼフィールとフロール、ミューズを導くアポロ、物乞う神々/イタリアを舞台にしたバレエ:ル・カルナヴァル、上機嫌な婦人たち、風変わりな店、プルチネッラ、女のたくらみ/バレエを逸脱した「バレエ」:花火、パラード/聖書を題材にサロメの悲劇、ヨセフ物語、放蕩息子/フランス風バレエ:アルミ―ドの館、女羊飼いの誘惑、牝鹿、うるさがた、青列車/コンテンポラリーダンス的魅力:船乗りたち、バラボー、ロミオとジュリエットネプチューンの勝利、牝猫、メルキュール、舞踏会/アメリカがバレエに:パストラル、びっくり箱

第5章 美術家たち・音楽家たち …305

  音楽家たち―幕間の音楽さえ初演だった、その豪華さ/ロシアの作曲家たち/ディアギレフの息子たち:イーゴリ・ストラヴィンスキー-第一の息子、セルゲイ・プロコフィエフ-第二の息子、ウラジーミル・デュケルスキー(ヴァ―ノン・デューク)-第三の息子、イーゴリ・マルケヴィチ-最後の息子/フランスの作曲家たち/六人組-メンバーとそこから繋がるフランス音楽界とバレエ・リュス/イタリア風・スペイン風作品と音楽家たち/英国の作曲家たち/舞台美術-『芸術世界』誌の人脈から/ブノワ-ディアギレフの世界を広げた男/バクスト‐バレエ・リュス初期のイメージの源流/『芸術世界』の人たちとバレエ/『芸術世界』から離れて/1920年代の多彩な顔ぶれ/バレエを超えたバレエへ

第6章 ディアギレフ死後:アフター・バレエ・リュス …369

  様々なバレエ・リュスの誕生-そしてバレエ・リュス・ド・モンテカルロ/ディアギレフ、最期の時/ニュースは世界へ/モンテカルロ・バレエ・リュス/バレエは新大陸、そして世界へ‐米国のバレエ/豪州のバレエ/英国のバレエ/フランスのバレエ/日本のバレエとの関わり/今日まで続くバレエ・リュスの遺香

あとがき …408
バレエ・リュス年譜 …(1)
主要参考文献 …I
人名・作品名索引 …①

メモ

■オリエンタルからアヴァンギャルドまで
 忘れてはならないのは、バレエ・リュスが質の高い作品を提供し続けることができた背景には、ディアギレフがバレエの教育、訓練というものの大切さを大変よく理解しており、バレエ・リュスに長い間エンリコ・チェケッティという名教師、後にリュボフ・チェルニチェヴァという二人がいたことである。(p33)

ペトルーシュカ
 この作品は、しばしばバレエ・リュスの作品に登場する「人形振り」と、「死んでも死なない」という二つのテーマを含んだ作品という点でも注目すべきだろう。… 死んでも死なないキャラクターは《ティル・オイレンシュピーゲル》(1916年)、《プルチネッラ》(1920年)、《バラボー》(1925年)といった作品にも登場する。これらほどはっきりと作品のなかで描かれなくても、「死んだものが生き返る、生き続けるというテーマ」と見なすことができる作品もある。こうした死生のテーマはディアギレフが特に意図したものではないだろうが繰り返し登場しているし、後に「死生」「エロス」といったテーマを打ち出してモーリス・ベジャールがバレエ界に登場することを考えると興味深い点である。(p174 )

■日本のバレエとの関わり
 もちろん、日本人ダンサーもその影響を受けており、上海バレエ・リュスにいたという小牧正英や、バレエ・リュスに憧れて研究した東勇作らが、バレエ・リュス作品を上演するなど大きな影響があった。上海バレエ・リュスはディアギレフのバレエ・リュスとはずいぶん違っていたが、レパートリーは重なる部分があった。当時は日本のバレエも、今ほど全幕ものにこだわることはなく、バレエ・リュスのように30分程度の作品をいくつか上演する形態で公演が行われていたのである。(p401-402)

『魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』図録

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「魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」図録

 2014年に国立新美術館で開催された、バレエ・リュスのコスチューム展の図録。1909年から1929年まで活動したバレエ・リュスでは、上演した演目のコスチュームを大量に所蔵していた。解散した後そのコスチュームは、様々な経緯ののち1967年以降オークションに出された。最初の3回の競売では欧米の博物館や美術館がコレクションを獲得したが、1973年の最後の競売で400点以上を競り落としたのは、キャンベラにあるオーストラリア・ナショナル・ギャラリー(現オーストラリア国立美術館)だった。同館ではその後もコレクションの充実を図り、傷んでいたコスチュームは丁寧に修復し、展覧会を開催している。そのコレクションからの140点を中心に開催されたのが、本図録の展覧会である。
 この図録は2010年にオーストラリア国立博物館で開催された「Ballets Russes: The Art of Costume展」に際して出版された図録の翻訳である。ただし原著にあったバレエ・リュスのオーストラリア公演に関する論考は、本橋弥生による「日本におけるバレエ・リュスの受容」に差し替えられており、その英訳も収録されている。

魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展 = The art of costume : Ballets russes

国立新美術館、2014.6
277p ; 29cm
展覧会カタログ ; 会場・会期: 国立新美術館・2014年6月18日-9月1日 ; 主催: 国立新美術館、TBS、オーストラリア国立美術館読売新聞社 ; 後援: オーストラリア大使館、公益財団法人日本バレエ協会 ; 協賛: 大日本印刷チャコット ; 助成: 豪日交流基金 ; 協力: K-Ballet、日本航空ヤマトロジスティクス
目次:
ごあいさつ …10
「魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」に寄せて …12
バレエ・リュスの衣裳という遺産 / ロバート・ベル …19

見果てぬ夢:バレエ・リュスを想う / ロバート・ベル …22
スペクタクルとしての公演:バレエ・リュス―歴史、古典主義的伝統 / ヘレナ・ハモンド …50
モダン・アート、モダン・バレエ / クリスティーン・ディクソン …68

セルゲイ・ディアギレフのバレエ・リュス 1909-29年 舞台衣裳 …82
《アルミ―ドの館》 …84
イーゴリ公》より《ポロヴェツ人の踊り》 …86
クレオパトラ》 …88
《カルナヴァル》 …92
シェエラザード》 …96
《ジゼル》 …102
火の鳥》 …104
《ナルシス》 …108
ペトルーシュカ》 …110
《青神》 …114
《タマ―ル》 …116
《牧神の午後》 …118
《ダフニスとクロエ》 …122
《蝶々》 …124
《金鶏》 …126
サドコ》 …130
《奇妙な店》 …132
ナイチンゲールの歌》 …134
《女の手管(チマロジアーナ)》 …138
《道化師》 …142
《眠り姫》 …144
《オーロラの結婚》 …148
《女羊飼いの誘惑》 …152
《ゼフィールとフロール》 …154
《鋼鉄の踊り》 …156
《頌歌》 …158
《舞踏会》 …162

バレエ・リュス・ド・モンテカルロ 1932-40年 舞台衣裳
《プルチネッラ》 …166
《予兆》 …168
《美しきドナウ》 …170
《公園》 …172
フランチェスカ・ダ・リミニ》 …174
《永遠の葛藤》 …176

日本におけるバレエ・リュスの受容―1910-20年代を中心に / 本橋弥生 …178
 はじめに
 1.第一世代 バレエ・リュスの発見者(1912-14年)石井柏亭山田耕筰小山内薫島崎藤村、大田黒元雄
 1-1 パリ ベルリン
 1-2 絵画的側面の受容(1912-13年)村田実、木村荘八萬鉄五郎長谷川潔
 1-3 ニジンスキーの紹介記事(1913-16年)
 1-4 『露西亜舞踊』と大田黒元雄
 1-5 日本人舞踊家の挑戦
 2.第二世代 受容から創造へ 猿之助とマシーン、アンナ・パヴロワの日本公演
 2-1 猿之助とバレエ・リュス
 2-2 バレエ・リュス評論の成熟
 2-3 アンナ・パヴロワ来日公演
 3.バレエ・リュスの画家たちと日本人の交流
 3-1 ゴンチャローワ、ラリオーノフと「舞台装飾展覧会」(1923年)
 3-2 福島夫妻とジョルジュ・ルオー
 おわりに 葦原英了とゴンチャローワ、ラリオーノフ

看過された事実:タグ、スタンプ、汚れ / デビー・ウォード …194

注釈 …209
デザイナー一覧 …216
バレエ・リュス年表 …228
出品作品リスト …238
Selected bibliography | 主要参考文献 …250
執筆者一覧 …257
The reception of the Ballets russes in Japan: focus on the 1910s and 1920s / Yayoi Motohashi …258

大田黒元雄『露西亜舞踊』(1917年版)

 ディアギレフが主宰したバレエ・リュスの概要を紹介した、大田黒元雄(1893-1979)の最初の著作。特定の劇場に所属しない舞踊団である「バレエ・リュス Ballets russes」は、当時の日本では直訳の「露西亜舞踊」と呼ばれていたと考えられる。大田黒は1912年から1914年までロンドンに留学しており、その間にバレエ・リュスのロンドン公演を数多く観劇していた。帰国後その印象を忘れないうちに書き留めようと著したのがこの書籍である。
 まず「自序」で、ロンドンで観たバレエ・リュスの舞台は忘れ難いこと、その印象が伝わるようにこの本では文章より挿絵に重きをおいたことを記す。続く「序説」では、「白鳥湖」から「春の犠牲(春の祭典)」まで、パリとロンドンで1914年までに上演された23の演目を挙げ、バレエ・リュスがいかに革新的な舞踊団であるかを様々な観点から述べる。そして「舞踊十二番」で代表的な演目12を取り上げ、タイトル(日仏)と構想、音楽、振付、舞台・衣裳図案に携わった人名を掲げた上で、筋書を図版と共に詳しく記載。最後に「参考文献」として、7冊の洋書と、芸術雑誌『コメディア・イルストレ Comœdia illustré 』の1912年~14年の数号、大田黒の著作のうち『バッハよりシェーンベルヒ』『近代音楽精髄』『印象と感想』を挙げている。巻末には挿絵の出典として参考文献に挙げた「各種の露西亜舞踊に関する著書と、雑誌「コメディア・イルストレ」、並びに倫敦の大家ホッペの撮った各種の写真から複製」したことが記されている。
 この書籍は大田黒自身が起こした「音楽と文学社」からでており、同社発行の雑誌『音楽と文学』には、広告も含め関連記事が掲載されている。
 

露西亜舞踊 / 大田黒元雄

音楽と文学社、大正6.6 [1917]
82p 図版43枚 ; 23cm
定価2円50銭

内容:
自序 …1
序説 …3
舞踊十二番 …47

附録 露西亜舞踊に関する参考文献 …80

『音楽と文学』誌に載った『露西亜舞踊』に関する記事

  • 「序説」全文(2巻2号 1917年4月)
  • 露西亜舞踊」に就て / 大田黒元雄(2巻6号)(萩原朔太郎からの書簡を転載)
     以下抜粋「あの美しい写真版と詩を読むような筋書とは私をすっかり空想の舞台につれて行きました。就中私のたまらなく思ったのは「ペトルーシュカ」の一幕です。筋書と説明を読んだだけでも私の胸は躍るようでした。ストラヴィンスキイの音楽というのはどんなものでしょう。そこには私の年来胸に抱いているようなあらゆる憧憬と美の世界があるにちがいない。あの人形の悲劇、カーニバルの賑わい、群集何という怪しげな音楽がそこに奏せられるか、何という夢幻的の舞台がそこにあることか。」
  • 表紙挿絵:妖精(2巻7号)、牧神(2巻8号)、ニジンスキイ(2巻9号)、ヨゼフ物語(3巻1号)
  • 広告:2巻3号~8号、4巻3号~6号
     抜粋「三色版・コロタイプ・網版・凸版・挿絵五十葉/最上等紙印刷 菊版天金著者装幀美本」

参考

  • 雑誌『音楽と文学』(1916~1919):大田黒元雄とその仲間たち:回想・プロフィール・記事一覧(奏楽堂特別展図録、日本近代音楽館、2002)
  • 大田黒元雄の足跡:西洋音楽への水先案内人:没後30年特別展(杉並区立郷土博物館、2009)

大田黒元雄『露西亜舞踊』(1926年版)

 ディアギレフが主宰したバレエ・リュスの概要を紹介した、大田黒元雄(1893-1979)の著作。書名の「露西亜舞踊」は普通名詞でなく、「バレエ・リュス」そのものを指している。バレエ・リュスは1909年から1929年まで、パリを中心に公演を重ねたバレエ団だが、本書はそのうち1909年から1924年までの演目や踊り手、スタッフについて記述している。大田黒は1912年から1914年までロンドンに留学しており、その後も何度か渡欧しているので、バレエ・リュスの舞台を実際に観ていた。1917年には最初の『露西亜舞踊』を音樂と文學社から出しており、本書はその約10年後にまとめたもの。
 大田黒は巻頭で「これは絵本である。文章はほんの解説に過ぎない」と述べている通り、本書はまず70枚近い挿絵により、バレエ・リュスの舞台、踊り手、振付や装置や衣裳を担当したスタッフたちを具体的に紹介している。その後に続く本文では、「序説」でバレエ・リュスがいかに一世を風靡した存在であったかを示した後、「年代記」で1909年から1924年まで1年ごとに、各年の上演演目と特徴を紹介。続いて「舞踊音楽」の勃興について触れた後、「舞踊十二番」として代表的な演目のあらすじと見どころを、1917年の『露西亜舞踊』から転載。「ロシア舞踊一覧表」では上演した46作品について、各演目のタイトル(日仏)、装置や衣裳、音楽、振付、初演日時等をまとめている。
 なお本書は、NDL(国立国会図書館)デジタルコレクションにはいっており、同館および図書館送信参加館で閲覧することができる。

露西亜舞踊 / 大田黒元雄

第一書房、大正15.9 [1926]
91p 図版 ; 26cm
750部限定出版、特価7円50銭

内容:
《挿絵》
■原色版
ダフニスとクロエ(バクスト)
ヨゼフ物語―ボテイフアの妻の衣裳(バクスト)
上機嫌の女たち(バクスト)
ペトルウシュカ(プノア)
金鶏第一幕(ゴンチャロヴァ)
ロシアの物語のための衣裳(ゴンチャロヴァ)
奇妙な店(ドラン)
三角帽(ピカソ
ルナァル(ラリオノフ)
レ ビイシュの幕(ロオランサン)

■写真版
ディアギレフ(バクスト)
イゴル公(レエリッヒ)
イゴル公 ―ボルム
韃靼の踊(グルウネンベルグ
フォキン(セロフ)
シェエラザァド
シェエラザァド ―ニジンスキイ
シェエラザァド(グルウネンベルグ
バクスト
火の鳥―カルサヴィナとボルム
カルサヴィナ
カルナヴァル ―ボルム
カルナヴァル(マルティ)
クレオパトラ(バクスト)
クレオパトラ(フェドロヴァ)
妖精
ストラヴィンスキーとニジンスキイ
ペトルウシュカ ―カルサヴィナ
ペトルウシュカ
タマァル ―ボルム
タマァル ―カルサヴィナとボルム
牧神の午後
ニジンスキイ(ブランシュ)
ダフニスとクロエ ―カルサヴィナ
春への犠牲 ―ソコロヴァ
ストラヴィンスキイ(ピカソ
ヨゼフ物語(セルト)
金鶏―カルサヴィナ
パラアドの幕(ピカソ
パラアド―ソコロヴァ
マッシイヌ(バクスト)
ロシアの物語
ロボコヴァ(ピカソ
奇妙な店の幕(ドラン)
三角帽の幕(ピカソ
三角帽の水車番(ピカソ
道化者
レ ファシュウー ―チェルニチェヴァとドラン
結婚
レ ビイシューラ ―ニジンスカ

《本文》
序説 …7
ロシア舞踊年代記 …15
ロシア舞踊と音樂 …37
舞踊十二番 …47

  • タマアル …49
  • 妖精 …52
  • イゴル公 韃靼の踊 …53
  • 薔薇の精 …55
  • クレオパトラ …56
  • カルナヴァル …59
  • シェヘラザアド …60
  • 火の鳥 …63
  • ペトルウシュカ …65
  • 牧神の午後 …69
  • 春への犠牲 …70
  • ヨゼフ物語 …71

ロシア舞踊一覧表 …75
目次 …88
挿絵目次 …90

参考


 1940年から45年まで上海バレエ・リュスに所属していた舞踊家の小牧正英(1911-2006)は、中学生の頃日本で大田黒のこの本に出会い、多くの図版に感動したと述べている。小牧はその時からバレエ・リュスの詳細に触れていたことがよくわかった。

井口淳子『亡命者たちの上海楽壇』

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井上淳子『亡命者たちの上海楽壇』
 上海に設置された外国人居留地である上海租界には、1920年代ごろからロシア革命を逃れた白系ロシア人ユダヤ人が大勢住みつき、欧米の最先端の芸術文化が紹介されていた。その実態は長らく謎に包まれていたが、この本の著者は当時租界で発行されていた各国語の新聞データを丹念に調査し、そこから上海租界での音楽関連文化の実態を浮かび上がらせている。第1章では舞台芸術の中心であった「ライシャム劇場」を取り上げ、第2章ではロシア人やユダヤ人ら亡命音楽家たちが担った「上海楽壇」を描く。第3章ではディアギレフの系譜を引き継ぐ「上海バレエ・リュス」の実像を詳述し、第4章では興行主「A.ストローク」の活動を、第5章ではストロークと共に活動した日本人「原善一郎」について述べている。各章の間に関連事項をコラムとしてまとめ、多くの舞台写真やプログラム、新聞掲載広告記事などを紹介している。

亡命者たちの上海楽壇:租界の音楽とバレエ / 井口淳子
音楽之友社、2019.3
236, xip ; 19cm (オルフェ・ライブラリー)
目次:
はじめに …5
第1章 ライシャム劇場:西洋と東洋の万華鏡
一 上海最古の西洋式劇場 …14
二 工部局オーケストラ …28
三 租界終焉に向かって沸き立つ劇場 …34
四 ライシャム劇場 …40

【コラム】
1 租界もしくは東洋雑居について …48
2 映画 …49
3 レコード …51
4 ラジオ放送 …53

第2章 上海楽壇:モダニズムからコンテンポラリーへ
一 上海楽壇とは …58
二 1939年の上海楽壇:亡命音楽家流入による新時代 …61
三 音楽評論を読み解く …67
四 同時代音楽への取り組み …70
五 ベルリンから持ちこまれた無調音楽 …74
六 十二音技法とナイトクラブ …81

【コラム】
5 上海工部局オーケストラ …92
6 国立音楽院(国立音楽専科学校) …94
7 シャルル・グルボワ(1893-1972) …96
8 アーロン・アフシャーロモフ(1894-1965) …97
9 ウォルフガング・フレンケル(1897-1983) …98

第3章 上海バレエ・リュス:極東でディアギレフを追い求めたカンパニー
一 上海バレエ・リュス …102
二 1934年11月、上海バレエ・リュス結成される …109
三 1935年2月、上海バレエ・リュスの旗揚げ公演 …116
四 上海で何が上演されたのか …123
五 フランス語新聞のバレエ評論 …130
六 1940年代の快進撃 …134
七 東洋のバレエ・リュスを再評価する …144
上海バレエ・リュスの舞台写真集 …150

【コラム】
10 上海バレエ・リュス …160
11 上海バレエ・リュス主要人物 …161
12 ロシア・オペラ、オペレッタ(ロシア歌劇団、軽歌劇団) …164

第4章 巡業するヴィルトゥオーゾたち:興行主A.ストロークのアジア・ツアー
一 極東のインプレサリオ誕生 …170
二 ストロークとは何者だったのか? …172
三 ストロークがプロデュースしたアジア・ツアー(1918~1941年) …176
四 ツアーの中心は上海から東京、大阪へ …192
五 戦後のストローク …193

第5章 外地と音楽マネジメント:原善一郎と上海人脈
一 音楽マネージャー、原善一郎 …200
二 原と上海交響楽団 …202
三 戦時上海の山田耕筰演奏会 …206
四 朝比奈隆との接点 …213
五 原とストロークの共同マネジメント …218
六 外地からもたらされたマネジメント戦略 …223

【コラム】
13 朝比奈隆の上海体験 …232

あとがき …234
参考文献 …vii
索引 …iii

藤野幸雄『春の祭典:ロシア・バレー団の人々』

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藤野幸雄『春の祭典:ロシア・バレー団の人々』
 1909年興行主ジァーギレフ(ディアギレフ)によって始められ、1929年の彼の死によって解散したロシア・バレー団(バレエ・リュス)の足跡を、関わった複数の人々の伝記によって浮かび上がらせた書籍。前史として1905年の「血の日曜日」の惨事から書き起こし、ジァーギレフ、ベヌア(ブノワ)、バクストら雑誌『芸術世界』(1898-1904) の同人として集った人々の交流、そこから生まれ出た美術展、コンサートの流れを示す。そしてバレエ団結成の経緯を語るにあたり関わった人々の伝記とロシア・バレー団の初期の年月を交互に置き、重層的に歴史を描き出している。なお各人の伝記は没年まで含むが、年代順の記述は1917年のロシア革命の時期まで。
 著者は東京外国語大学ロシア語科出身の図書館学者で、人名のロシア語読みはフランス語表記に慣れた目には最初はなじみにくかったが、ロシア語を含む各国語の参考文献をたんねんに読み込んで語られる内容は、ロシア・バレー団の実態を見事に浮かび上がらせている。
 
春の祭典:ロシア・バレー団の人々 / 藤野幸雄
晶文社、1982
281, xxp ; 20cm
目次:概要

  1. プロローグ 1905年:ペテルブルグでの「ロシア歴史肖像画展」
  2. ジァーギレフ:興業主。『芸術世界』同人。
  3. 1906-7年:ロシア美術展、ロシア歴代コンサートをパリで開催
  4. ベヌア:美術家、美術史家。『芸術世界』同人。バレエ団で舞台美術を担当。『ペトルーシュカ
  5. 1908年:ロシア・オペラ、バレー公演をパリで開催
  6. バクスト:画家、舞台美術家。『芸術世界』同人。バレエ団で舞台美術を担当。
  7. 1909年:セゾン・リュス開始、『クレオパトラ』他上演
  8. パヴロワバレリーナ。1909年『アルミ―ドの館』『レ・シルフィード』『クレオパトラ』に出演。
  9. 1910年:『火の鳥』『シェエラザード』他
  10. フォーキン:バレー・ダンサー、振付師。『ペトルーシュカ
  11. 1911年:ロシア・バレー団結成、『ペトルーシュカ』初演他
  12. カルサーヴィナバレリーナ。『ペトルーシュカ』で踊り子。
  13. 1912年:『牧神の午後』他
  14. ニジンスキー:バレー・ダンサー、振付師。『ペトルーシュカ』でペトルーシュカ
  15. 1913年:『春の祭典』他、南米公演
  16. ルビンシテ―イン舞踊家、女優。『クレオパトラ』『シェエラザード
  17. 1914年:『金鶏』、第一次大戦開戦、バレエ団離散
  18. ストラヴィンスキー:作曲家、指揮者。『火の鳥』『ペトルーシュカ』『春の祭典
  19. エピローグ 1914-1917年:スイスで再結成、アメリカ公演、『パラード』、ロシア革命

あとがき
参考文献
索引(バレー作品)(人名)