ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

大田黒元雄『露西亜舞踊』(1917年版)

 ディアギレフが主宰したバレエ・リュスの概要を紹介した、大田黒元雄(1893-1979)の最初の著作。特定の劇場に所属しない舞踊団である「バレエ・リュス Ballets russes」は、当時の日本では直訳の「露西亜舞踊」と呼ばれていたと考えられる。大田黒は1912年から1914年までロンドンに留学しており、その間にバレエ・リュスのロンドン公演を数多く観劇していた。帰国後その印象を忘れないうちに書き留めようと著したのがこの書籍である。
 まず「自序」で、ロンドンで観たバレエ・リュスの舞台は忘れ難いこと、その印象が伝わるようにこの本では文章より挿絵に重きをおいたことを記す。続く「序説」では、「白鳥湖」から「春の犠牲(春の祭典)」まで、パリとロンドンで1914年までに上演された23の演目を挙げ、バレエ・リュスがいかに革新的な舞踊団であるかを様々な観点から述べる。そして「舞踊十二番」で代表的な演目12を取り上げ、タイトル(日仏)と構想、音楽、振付、舞台・衣裳図案に携わった人名を掲げた上で、筋書を図版と共に詳しく記載。最後に「参考文献」として、7冊の洋書と、芸術雑誌『コメディア・イルストレ Comœdia illustré 』の1912年~14年の数号、大田黒の著作のうち『バッハよりシェーンベルヒ』『近代音楽精髄』『印象と感想』を挙げている。巻末には挿絵の出典として参考文献に挙げた「各種の露西亜舞踊に関する著書と、雑誌「コメディア・イルストレ」、並びに倫敦の大家ホッペの撮った各種の写真から複製」したことが記されている。
 この書籍は大田黒自身が起こした「音楽と文学社」からでており、同社発行の雑誌『音楽と文学』には、広告も含め関連記事が掲載されている。
 

露西亜舞踊 / 大田黒元雄

音楽と文学社、大正6.6 [1917]
82p 図版43枚 ; 23cm
定価2円50銭

内容:
自序 …1
序説 …3
舞踊十二番 …47

附録 露西亜舞踊に関する参考文献 …80

『音楽と文学』誌に載った『露西亜舞踊』に関する記事

  • 「序説」全文(2巻2号 1917年4月)
  • 露西亜舞踊」に就て / 大田黒元雄(2巻6号)(萩原朔太郎からの書簡を転載)
     以下抜粋「あの美しい写真版と詩を読むような筋書とは私をすっかり空想の舞台につれて行きました。就中私のたまらなく思ったのは「ペトルーシュカ」の一幕です。筋書と説明を読んだだけでも私の胸は躍るようでした。ストラヴィンスキイの音楽というのはどんなものでしょう。そこには私の年来胸に抱いているようなあらゆる憧憬と美の世界があるにちがいない。あの人形の悲劇、カーニバルの賑わい、群集何という怪しげな音楽がそこに奏せられるか、何という夢幻的の舞台がそこにあることか。」
  • 表紙挿絵:妖精(2巻7号)、牧神(2巻8号)、ニジンスキイ(2巻9号)、ヨゼフ物語(3巻1号)
  • 広告:2巻3号~8号、4巻3号~6号
     抜粋「三色版・コロタイプ・網版・凸版・挿絵五十葉/最上等紙印刷 菊版天金著者装幀美本」

参考

  • 雑誌『音楽と文学』(1916~1919):大田黒元雄とその仲間たち:回想・プロフィール・記事一覧(奏楽堂特別展図録、日本近代音楽館、2002)
  • 大田黒元雄の足跡:西洋音楽への水先案内人:没後30年特別展(杉並区立郷土博物館、2009)