マニラの室内楽公演では、武満徹の作品『アントゥル=タン オーボエと弦楽四重奏のための』も取り上げます。「アントゥル=タン」とは何ぞや、人の名前か、と思ったら、フランス語の" Entre-temps"、英語だと"Between Times"、日本語にすれば「時の間に」でありました。解説によると、この作品は「フランスのダダイストの詩人トリスタン・ツァラの同名の詩集(1946年)の、次の3つの行に基づいている」とのこと。
on our heads a single bird
in our hands the flying hand
it is one, it is time
言葉はやさしいですが、意味するものはなんだかよくわかりません。そこでトリスタン・ツァラ(Tristan Tzara, 1896-1963)の詩集を図書館から借りてきました。ルーマニア生まれでパリで活躍したこの詩人の詩集には、当時の芸術家たちとの交流を示す写真がいろいろ載っていました。該当の詩を探したら、『時の間に』には「存在理由」と「失われた道」の二つの詩がはいっていて、上記の3行は「存在理由」の冒頭にあり、訳はつぎのようになっていました。
われらの頭上の唯ひとつの鳥
われらの手のなかの飛翔する手
それは同じものでありそれは時間である
出典:『ツァラ詩集』ルネ・ラコート編、浜田明訳(思潮社、1995)(1981年刊の新装版)p200
ダダイズムでは言語の意味が否定されているそうですから、ここで言葉の意味を詮索してもしかたありませんが、ご参考まで。演奏を聴くのが楽しみです。