ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

佐藤春夫『車塵集』と芥川也寸志……生誕90年企画に寄せて

 『車塵集』は中国六朝から明清時代の女性32人の漢詩48篇を、詩人・佐藤春夫(1892-1964)が翻訳し1929年に武蔵野書院から出版した詩集です。近くの図書館から佐藤春夫車塵集・ほるとがる文』(講談社文芸文庫、1994)を借りてきて読んでみました。詩集の最初に「美人香骨 化作車塵」とあり、裏表紙に「美人の香骨、化して車塵となる」と書かれていて、「車塵」とはこのことかとわかりました。詩集は一篇の詩が1ページに配されていて、タイトル、元の漢詩、訳詩、の順で並んでいます。訳詩といっても元の漢詩からかなり自由に言葉を紡ぎ出しているのがわかります。各詩のタイトルも訳者がつけたもので、元の詩からというより訳詩からつけた印象です。詩集の後に原作者の女性たち一人一人についての簡単な紹介があり、様々な境遇の女性たちが詩作をし、後代に伝わり日本の詩人が訳した道筋に思いを寄せることができました。
 冒頭に「芥川龍之介がよき霊に捧ぐ」と記されていて、自殺した芥川龍之介(1892-1927)を悼んでいます。二人は同い年の友人で、佐藤は芥川没後30年以上後に、『わが龍之介像』を出版しています(有信堂、1960)。三男の芥川也寸志(1925-1989)がこの『車塵集』から「もみぢ葉」「薔薇をつめば」「水彩風景」「採蓮」「春のをとめ」の5篇に作曲をしたのは1949年、24歳の時でした。

参考: