ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

大木惇夫『緑地ありや』第8章

 大木は博文館で編集の仕事に邁進していました。同僚は様ざまな観点から文学や教養というものについて教えてくれました。
 広島へ帰った恵子は父親から激しく非難され、体調をくずして入院してしまいました。そうして何ヶ月も過ぎた時、父親が突然事故死してしまいます。それを期に恵子は再び上京し、同棲生活が始まりました。大木は非合法な生活は会社に迷惑をかけると思い博文館に辞表を出しますが、受理されず逆に励まされます。双方の親の計らいでアメリカから離婚届が着き、大木の父が改めて恵子の入籍手続きも済ませてくれました。友人が二人だけの結婚式をあげてくれ、博文館からでた金一封を旅費にして二人は故郷へ披露の旅に出ました。

寂しき花嫁よ、今ぞ華燭のうたげをはらむ、
賓人はなけれど、薔薇は空にも咲きあふれたり。


われら夢みる者は水にさへ酔はむ、
踊らざれど、華やげる饗宴の心とならむ、
歌はざれど、よき言葉、花粉の如く散らばはむ、
  沈黙なす光のなかに。


ああ、今ぞわれら永遠につらならむ、
薔薇は空にも咲きあふれたり。
    ― 寂しき花嫁におくる