ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

深井史郎作曲『春幾春』と城左門

 作曲家深井史郎の年譜には、『リンドバーグの飛行』に関わった1935年に、歌曲『春幾春』(はるまたはる)の初演が行われたことが書かれています。初演は1935年6月3日日本歌曲新作演奏会にて、太田(荻野)綾子独唱、指揮菅原明朗、新響、となっています。(オーケストラ・ニッポニカ第11回演奏会:深井史郎作品展のプログラムによる)

 この曲の作詩は城左門(じょう・さもん、1904−1976)で、詩そのものは図書館で借りてきた『城左門全詩集』(牧神社、1976)に載っていました。冒頭部分を同書46-47ページより転載します。

春幾春


今ひとたび、さなり、今ひとたびよ!
じゆりあよ、いや遠き、その昔(かみ)の日の、嫋(よな)びしおもわ
なれがおよび、をとがひ、うなじ
さては又、丈(たけ)長のなれが黒髪
思ひ出でゝ
久かたの、天(そら)の光りに、かぎろひの春は帰りぬ
白さうび、咲きいでて、匂やぎぬ、艶(えん)だちぬ
それよ、じゆりあが、めではやす、春のはつ花

 「じゆりあ」の部分には傍線がひかれていて、これが人名だと思わせます。典雅な作風があふれ出ているのがわかります。「かぎろひ」は「陽炎(かげろう)」、「白さうび」は「白薔薇」のこと。城左門は『もう直き春になるだらう』の作詩者でもあり、少しだけ調べたことを追って掲載する予定です。