岩野裕一著『王道楽土の交響楽』によると、ハルビンから演奏家を呼んで1925年に開催された演奏会のプログラムは下記のとおりでした。
日露交歓交響管弦楽演奏会プログラム 1925年(大正14)
第1夜(4月26日)
ベートーヴェン 交響曲第5番 指揮 近衛秀麿
ゴールドマルク 《サクンタラ》序曲 指揮 山田耕作
山田耕作 明治頌歌 同
リムスキー=コルサコフ 交響組曲《シェエラザード》 同
第2夜(4月27日)
チャイコフスキー 交響曲第6番《悲愴》 指揮 山田耕作
リスト 交響詩《レ・プレリュード》 指揮 近衛秀麿
マーラー=近衛編 交響曲第1番より第3楽章 同
R.シュトラウス 歌劇《ばらの騎士》よりワルツ 同
ワーグナー 楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》前奏曲 同
第3夜(4月28日)
カリンニコフ 交響曲第1番 指揮 近衛秀麿
ドヴォルザーク チェロ協奏曲(チェロ=ベッケル) 指揮 山田耕作
R.シュトラウス 歌劇《サロメ》の音楽 同
山田耕作 御大典奉祝前奏曲(合唱つき) 同
ワーグナー 歌劇《さまよえるオランダ人》序曲 同
第4夜(4月29日)
ベートーヴェン 交響曲第7番 指揮 近衛秀麿
チャイコフスキー 《胡桃割り人形》組曲 指揮 山田耕作
ムソルグスキー 《禿げ山の一夜》 同
ボロディン 歌劇《イーゴリ公》より3曲 同
これは「日本交響楽史上、最初のビッグ・イベントであった」と岩野さんは書いています。演奏会は初日こそ不入りだったものの、4日目には会場から聴衆が溢れるほどだったそうです。一行はモーツアルトの交響曲40番とドビュッシーの《牧神の午後への前奏曲》を加えたプログラムの組み合わせで、名古屋、京都、大阪、神戸を巡演し、更に東京で追加公演も行われました。演奏会を聴いた服部良一、野村光一、朝比奈隆などの声が伝えられています。
当時ヨーロッパからオーケストラを呼ぶと言うのは、費用の面からもスケジュールの面からも難しいことでしたが、ハルビンからなら可能だったわけです。会場となった歌舞伎座は前年暮れに新装なったばかりで、柿落としとしてこの演奏会が企画されたとのことです。