ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

矢代秋雄の語る池内友次郎

 矢代秋雄が師・池内友次郎の作品について語った文章が、『オルフェオの死』に載っていました。池内友次郎還暦記念演奏会のプログラムに掲載されたものです。その中から、『交響的二楽章』(1951)の前後の作品のものを抜粋します。

弦楽四重奏曲−プレリュードとフューグ

 戦争末期、疎開先の都下調布市の仮寓で書き進められ、戦後に完成された。「熊野」とともに現在までの先生の全作品中、最も充実したものといって差支えない。書式は完全であり、構成は巧みで、音楽は重厚しかも流麗、その上先生の作品には稀にしか見られない情熱と霊感の高揚がある。特筆すべきことは、豊麗な第二主題の活用によって、ともすれば衒学に陥りやすいフューグに潤いとファンタジーを与えて見事な音楽作品に仕上げていることである。(後略)

ソナチネ第四番(ソプラノのための)

 1954年から58年にかけて、先生はソナチネを4曲作られた。即ち、第1番はピアノのため、第2番はヴァイオリンと(ピアノ)のため、第3番はセロと(ピアノ)のため、そして今夕演奏される第4番である。これ等の曲はいずれも「ソナチネ」という簡潔な形式の中に精緻な書式と、洒脱な音楽とを盛っており、最近の先生の音楽に対する態度が端的に表現されている。この第4番に於いては、人声を器楽的に扱い、歌を器楽形式で処理した点が珍しく、曲中ひときわ新鮮な魅力を備えている。(後略)

出典:矢代秋雄オルフェオの死』(深夜叢書社、1977)p170-171