ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

声明について(その2)石井眞木と声明

 『石井眞木の音楽』に声明がでてきたことを思い出しました。それによると眞木さんは1966年1月に奈良・法隆寺夢殿で初めて声明を聴いたそうです。そして3月には東大寺で、さらには真言天台密教の声明も体験されました。

 この音楽の輪郭が次第に見えてきて分かったのは、少なくとも西欧的な方法ではこの音楽をうまくアナリーゼできない、というじつに単純で<やっかい>な問題であった。例えば僧侶が唱える聲である。先ず音高も音域も相対的である。そのうえ一種のポルタメント唱法−塩梅(えんばい)の技巧が「朗唱」では重要であり、さらに、唱える僧侶各々の性格を表すように、音色、表現は十人十色である。したがって、結果的に複雑な倍音をともなった斉唱になる。(中略)聲明はしばしば「グレゴリオ聖歌」の歌唱との近似性がいわれるが、これひとつを比較しても似て非なる様相である。(p24)

 聲明は、その聲の特質といい、その音楽のもつ時間的空間性といい、古代インド、古代東アジアの宇宙観にささえられた法会の構成法といい、どれをとっても西洋音楽とはまったく異質な「東の響き」なのである。さらにいえば、ここには日本の伝統芸術の代名詞といわれる「侘び・寂び(わび・さび)」的美学ともまったく無縁な、根源的な力を感じさせる<音の世界>が存在しているのである。(p26)

石井眞木『西の響き・東の響き』目次 http://d.hatena.ne.jp/nipponica-vla3/20130111/