ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

石井眞木が語る『ブラック・インテンション』

 『石井眞木の音楽』には、次のような作曲家の言葉がありました。

 1970年代中葉から書き始めた《ブラック・インテンション》、《失われた響き》の二つのシリーズの作品群は、たぶん、西に振れたものの代表であろう。私はこれまで幸いなことに、伝統楽器の秀れた演奏者、義太夫の竹本織大夫、横笛の芝祐靖、赤尾三千子、筝の沢井忠夫、笙の宮田まゆみの諸氏に出会い多くの作品を書いてきたが、このシリーズでは西洋楽器のソリストたちからいろいろと触発をうけた。《ブラック・インテンションI》はリコーダーのフランス・ブリュッヘン、《同、III》はピアニストの高橋アキ、《失われた響き》シリーズはヴァイオリンの小林健次、前橋汀子、篠崎功子、オルガンのジグモント・サットマリー、ハープの篠崎史子といった諸氏の〈超絶技巧〉から多くの創造的インスピレーションを得た。換言すれば、この演奏家たちの資質が、作品の方向を〈西の響き〉へ傾斜させた、ともいえよう。しかし、やはりここにも比重の差はあるにしても、作品内部には自然に、音色や、音楽時間観に東アジア的要素が混入し、作品にひとつの性格を与えている、と思う。

出典:石井眞木編著『石井眞木の音楽 : 西の響き・東の響き : 二つの音世界からの創造』(音楽之友社、1997)p48、52