ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

安西冬衛『軍艦茉莉』

 安西冬衛が詩作をした大連は、1900年頃にロシアが進出して開発した街でした。パリを模して中心の大広場から放射状に道路がのびていく都市計画が立てられました。1904-5年の日露戦争に勝った日本はこの地を手に入れ、多くの建築家が海を渡り大規模な都市造りに参画しました。昨年大連にいきましたが、そこには紛れもないヨーロッパの大都会が広がっているのでした。
 安西冬衛の詩集『軍艦茉莉』(1929)に収められた作品からは、大連の香りが馥郁と立ちのぼってきます。英語やフランス語が飛び交い、サンサーンスのオペラ『サムソンとデリラ』やシャガールの絵、ペルシャの文物、間に顔を出す中国。それらが洗練された言葉遣いで次々と詩の中にうたわれていきます。
 この詩集を読んだ人々は、きっと大連の地に豊かな夢を描いたことでしょう。復刻版も出ているのは、いかにたくさんの人々の心をこの詩集がとらえたかを物語っています。豊かで平穏な生活が1945年8月9日まで続いていたことは、多くの証言があります。山田和男が指揮者としてこの地を訪れたのは、1945年春のことでした。