ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

城左門と安西冬衛

 城左門(1904-1976)の詩集『終の栖』(1942)に収められている詩に「九夢」というのがありました。冒頭を引用します。

九夢


――ねえ、叔父さん
と、九ツになる姪が云ふのだつた、
おかつぱ頭を、おしやまに傾けて、
――日本海をねえ、――え?日本海を?
蝶々が一匹、満洲へ渡つて行くの、
落ちないか知ら、叔父さん?
(以下略)


出典:『城左門全詩集』(牧神社、1976)p262

 この部分を読んだらすぐに、蝶が韃靼海峡をわたるという安西冬衛(あんざい・ふゆえ、1898-1965)の「春」を思い出しました。


てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。

出典:安西冬衛『軍艦茉莉』(厚生閣書店、1929)〔復刻版=日本近代文学館 1980年刊〕p22 (大田区立池上図書館所蔵)
原著 http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/8299147.html
復刻版 http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/7405504.html

 安西のこの作品は1929年の詩集『軍艦茉莉』に収められています。安西は1920年に大連に渡っています。城左門は安西冬衛のこの有名な一行詩をもちろん読んでいたと思います。大陸の存在が日常の中にあった時代でした。