ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

ドナルド・キーン著『戦場のエロイカ・シンフォニー』

 日本国籍を取って日本に移住すると宣言した日本文学研究者ドナルド・キーン(Donald Keene, 1922-)氏の最近作です。新聞の書評で見て思わず本屋に走り、一気に読み終えました。元外交官の小池政行氏との対談を本にしたもので、対談は昨2010年11月に3回に渡って東京・北区のキーン氏宅で行われました。
 戦時中にハワイでキーン氏の接した日本人捕虜の中に音楽が好きな人がいたか、という小池氏の問いに対するキーン氏の答えです。

キーン: かなりいました。ある時、私と大変仲の良かった捕虜が「音楽を聴けないのは辛い」と訴えたので、私は「どんな音楽が聴きたいか」と問いました。相手は「ベートーヴェンが好きです」と。「ベートーヴェンの何が好きですか」「交響曲第三番『英雄』です」。考えてみると捕虜に音楽を聴かせることは禁じられていませんでした。そこで私は当時の蓄音機とレコードを用意して捕虜収容所に行って、そこのシャワー室で――一番良く音が響くので――レコード・コンサートを開いたのです。まずはホノルルの町で買った日本の流行歌のレコードを聴かせてみると、なるほど全員がそれを知っていました。その後で、ぼくは言いました。
「これからは外国の長いクラシック音楽ですが、聴きたくない人は帰っても結構です」と。
 しかし、だれも帰らないので、そのままベートーヴェンの第三を通して聴かせたのです。それは、私の戦争経験の中でも、忘れられない一件です。戦時中、確か一九四四年でしょう。(p54-55)

出典:戦場のエロイカ・シンフォニー:私が体験した日米戦 / ドナルド・キーン、小池政行著 (藤原書店、2011)
http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/23191584.html


1944年は『おほむたから』が作曲された年でした。