ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

城左門

 『もう直き春になるだらう』の作詩者城左門(じょう・さもん、1904-1976)については何も知らなかったので、図書館で『城左門全詩集』(牧神社、1976)を借りてきました。別刷解説に2ページにわたって「自伝」が載っていたので、その冒頭を引用します。橋本國彦と同じ年の生まれです。

 明治37年(1904-)6月10日、東京神田駿河台東紅梅町に生る。本名稲並(イナミ)昌幸。父幸吉は理学士。母文子は幕臣柴田女。京華中学4年修業の頃、軽微の胸部疾患を理由に通学の事を廃す。元来、国体統制的規矩を嫌厭する性癖あり。雑書を乱読して詩作に専念、父の激怒をかう。

 この文章からだけでも人柄や作風がうかがえます。自伝の中に日夏耿之介西條八十堀口大学佐藤春夫などという、近代詩人の名前が綺羅星の如く登場するのにびっくりしました。詩集にひととおり目を通しましたが、モダンな言葉遣いにしばし酔いました。写真はマーブル模様が施された詩集の裏表紙です。20代からいくつもの詩の雑誌を創刊し、詩集や翻訳も出版し、旺盛な創作活動をしていたことがよくわかりました。自伝の最後は次の通りです。

 以上、詩的経歴を述べ来つて私かに思ふ、我が生涯は、雑誌、詩集の刊行歳次を示す以外、記す可き何等の傳なきを。内面の葛藤、相克を陳ずるは他事也。傳するに足る波瀾の一の有る無く、願望すれば淡々、又坦々、寧ろ傳するものなきを喜ぶべき歟。妻あり子なし、安住して酒を愛す。

 なお、小説家としての筆名は、城昌幸