ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

大江健三郎『上機嫌』その1

大江健三郎の1959年の短編のひとつに『上機嫌』があります。丁度『ヒロシマのオルフェ』の台本(『青年のオルフェ』→『暗い鏡』)を書いていた時期と重なる作品です。登場人物は「オペラ台本を書いている私」「婚約者の映画女優」「オートバイ操縦者のオルフェウス」「もう一人のオートバイ操縦者」。このオルフェウスは登場したとたんに事故死してしまいます。ストーリーは残った3人の三角関係となっていくのですが、これらの要素がジャン・コクトーの戯曲『オルフェ』と似ている、という話を小耳にはさみました。さらにこの戯曲が映画化されDVDになっているのを知り、早速入手して観てみました。
コクトーの『オルフェ』の主な登場人物は、「詩人のオルフェ」「妻のユリディウス」「死神の女性」「死神のおかかえ運転手」「二人のオートバイ操縦者(死神の手下)」。ストーリーはとてもシュールなのですが、事故死したユリディウスが死神に連れられ「鏡」を通って黄泉の国へ行き、追ってきたオルフェウスに連れ戻され…といった、オルフェウス神話を踏まえていることは確かです。台詞の中に「さあ、数えて」とか「始めよう」とか、『ヒロシマのオルフェ』にも見られるものがあります。「運転手」も重要な役どころです。
この映画の日本での公開は1951年のようです。大江さんが観ていたかどうかはわかりませんが、東大仏文科の学生ですから少なくとも翻訳で、おそらくは原書のフランス語で読んでおられたのではと想像します。