ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

『HIROSHIMA』と『ヒロシマのオルフェ』

 『ヒロシマのオルフェ』の1日後に出た話題のCDを聴きました。まことに力強くスケールの大きく、そして美しい音楽が現代の日本で生まれたことに心を動かされました。演奏している東京交響楽団のメンバーの感動が直に伝わってきます。
 佐村河内守(さむらごうち・まもる、1963-)は多くの先人の作品を足掛かりに、自分の人生を音楽に投影しているのがわかります。作曲者の魂が聴衆に語りかける言葉がダイレクトに届いてきます。閉じられた世界の語法でなく、作品のもつ確かなエネルギーが演奏者を動かしています。様々なエピソードに彩られているようですが、それを全部差し引いても燦然と輝いています。私もいつか演奏してみたいです。

交響曲第1番「HIROSHIMA」 / 佐村河内守
大友直人(指揮) ; 東京交響楽団
日本コロムビア, 2011.07.20
1 compact disc (81分)
録音:2011年4月11-12日, パルテノン多摩大ホール
DENON COCQ-84901
日本コロムビアのサイト:http://columbia.jp/artist-info/samuragochi/COCQ-84901.html

 ライナーノーツは長木誠司さんの「21世紀の日本に可能な交響曲の姿」。なかなか刺激的な文章ですが、気になるセンテンスがありました。

ヒロシマ」を問題にすることは、逆にあまりに政治性を帯びすぎて――文脈に適合しすぎて――難しかった(オペラ『ヒロシマのオルフェ』を見よ)。

 『HIROSHIMA』のテーマは明らかに「ヒロシマ」ですが、ヒロシマのオルフェ』のテーマは「オルフェ」であって「ヒロシマ」はひとつの素材にしかすぎません。テキストの作者が訴えたかったのは「オルフェ」―青年の苦悩であって、「ヒロシマ」は後からつけくわえられたものでした。それはテキストをきちんと読めば誰にでもわかります。奏者からみると、若者の書いたテキストを熟練の作曲家が音楽で包み込んだ、という印象で、明らかに音楽のほうが時代の先を行っています。そういうことを聴き取ってくれる評論家の登場を待ちたいものです。


参考:芥川也寸志大江健三郎略年譜(『ヒロシマのオルフェ』まで)
http://d.hatena.ne.jp/nipponica-vla3/20100131/1264342291


【追記】佐村河内守交響曲第1番』が本人の作ではなかったことが、2014年2月5日に報じられました。残念なことです。また作品そのものの価値と、その出自との関係についても、いろいろ考えさせられます。(2014−02−05)
交響曲第1番』をもう一度聴きなおしてみました。作品の持つ力はみじんもゆるがず、弾いてみたいと思う気持ちも変わりませんでした。(2014-02-06)