ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

サティ『パラード』の「蒸気船のラグタイム」

 サティの『パラード』では、見世物小屋の前で演じられる3つの出し物に曲が付けられています。一つ目は「中国の手品師」、二つ目は「アメリカの少女」、そして三つ目は「軽業師」。二つ目の「アメリカの少女」では、「アメリカ」を象徴するものとして「タップダンス」、「タイプライター」、「ピストル」、「ラグタイム」などが採り入れられています。「タップダンス」はチャップリンの演じる映画を想起させ、「タイプライター」は純音楽の中に「雑音」のひとつとして登場します。こちらも雑音の「ピストル」の音はスリを脅かす演技で使われ、そしてジャズに通じるラグタイムはスコアに「Rag-time du paquebot」(Ragtime of the passenger steamer)と書かれていて、「蒸気船のラグタイム」という想定です。
 拍子の後半にアクセントがあるラグタイムは、今では特別なものに感じませんが、1917年のパリではきっとアメリカのにおいがプンプンしていたことでしょう。一方でこの蒸気船はミシシッピ河の遊覧船ではなく、イギリスの客船タイタニック号だそうです。音楽は最初から最後までのんびりしていますが、「アメリカの少女」はタイタニック号に乗り、遭難して浜辺に打ち上げられる、という振付です。タイタニック号が遭難したのは1912年4月ですので、ヨーロッパの人々には記憶に新しい出来事でした。(なおタイタニック号の動力は、レシプロ蒸気機関というものだったそうです。)

 そういえば『パラード』初演の1917年から今年は100年目です。1917年は第一次大戦真っ最中で、ロシア革命がおこった年でした。