第43回演奏会に関するニッポニカのFacebook記事です。
第43回演奏会の曲目データ
ニッポニカ第43回演奏会で演奏する4曲には、それぞれ作曲者の思いを投影する標題がついています。曲名の由来や作曲の経緯など、出典のわかる曲目データをウィキペディアに載せておきました。
■参考
林光『八月の正午に太陽は…』歌詞の解釈
林光の第三交響曲『八月の正午に太陽は…』という曲名は、中国の現代詩人ペイタオ(北島)の『八月の夢遊病者』という詩にある、「八月の正午に太陽は無く」から採られています。この「八月」は、文化大革命の終結宣言が出された特別な月である1977年8月を指します。1949年生まれのペイタオは少年期に文化大革命が始まり、学校をやめて工場労働者となりました。最初のうちは熱心な紅衛兵として行動しましたが、1970年から詩を書き始め、心の中の思いをそれに込めていきました。
曲の第三楽章では、ペイタオの詩「回答」の日本語訳を林光が自由に翻案したものが使われています。
氷河期は過ぎ去ったのに
なぜ どこもかしこも氷なのか
岬は希望と名付けられたのに
死海には なぜ千の帆が競うのか
この世界にただ紙と縄と
私の影をたずさえてやってきた
審判の前に
裁かれる者の声を読みあげるために
低劣は低劣な者どもの通行証
高潔は高潔な者たちの墓碑銘
見よ あのメッキした空を
さかさまにうつる影 折れ曲がった死者たち
わたしは信じない 空が青いことを
わたしは信じない 雷のとどろきを
わたしは信じない 夢が嘘だということを
わたしは信じない 報いのない死など
日本語は平易でも内容は難解なので、以下に文献で調べた上での私の解釈を記しておきます。
【歌詞の解釈】()内は小節番号と歌い出し
(85~ 氷河期は~)
中国建国から30年たち平穏な社会ができたはずなのに
なぜいたるところに氷があるのか
次の時代を明示する喜望峰は発見されたのに
なぜ数多の船が死海で競うのか
(117~ この世界に~)
詩人は表現のための「紙」と自分を縛る「縄」と
自分の「影」のみをたずさえてきた
裁かれる前に
未来へ向けた詩人の叫びを吐き出すために
(195~ 低劣は~)
権力に追随する低劣で
高尚な者たちは
空に影でうつる死者たちを
「金メッキ」で隠している
(249~ わたしは信じない)
為政者が声高に唱えた「空が青い」
「雷のとどろき」など空疎な言葉は信じない
夢のために命をかけた犠牲者の
行為を肯定し追悼する
■参考文献
- 林光『林光の音楽』(小学館、2008)p43-44
- 財部鳥子訳『億万のかがやく太陽:中国現代詩集』(書肆山田、1988)p18-19
- 山田敬三「北島の「回答」を読む」『季刊中国研究』(20), 1991.5, p139-142
- 浅見洋二「男の子がひとり、境界の河を越えて送信する、詩:北島の詩をめぐる断章」『現代中国詩集』 思潮社、1996, p118-119
■参考記事
■変更履歴
- 2023.11.11: 歌詞を追加
第43回演奏会作曲家年表
オーケストラ・ニッポニカ第43回演奏会のテーマは「社会への眼差し」です。また林光の作品は現代中国の詩を題材にしています。そこで取り上げる4人の作曲家の年譜に同時代の日本と中国の出来事を加え、彼らがどんな「社会」を生きたのか生きているのか年表にしてみました。演奏会当日配布プログラムにはこの年表の改訂版を掲載します。
西暦 | 池辺晋一郎 | 吉松隆 | 三善晃 | 林光 | 日本の出来事 | 中国の出来事 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1919 | 5月4日反帝国主義運動 | ||||||
1931 | 東京生 | 9月柳条湖事件 | |||||
1933 | 東京生 | 2月国際連盟脱退 | |||||
1937 | 日中戦争~ | ||||||
1941 | 12月真珠湾攻撃 | ||||||
1943 | 水戸生 | ||||||
1945 | 8月終戦 | ||||||
1949 | 中華人民共和国成立 | ||||||
1950 | 6月朝鮮戦争~ | ||||||
1951 | 東大入学 | 芸大入学 | |||||
1952 | 占領終結 | ||||||
1953 | 東京生 | 芸大中退、『交響曲ト調』 | |||||
1955 | 尾高賞、パリ音楽院留学 | ||||||
1956 | 尾高賞 | ||||||
1958 | 帰国、『交響的変容』 | 『原爆小景』 | |||||
1960 | 東大卒、『交響三章』 | 60年安保闘争 | |||||
1963 | 芸大入学 | 尾高賞 | |||||
1964 | 『管弦楽のための協奏曲』 | 東京オリンピック | |||||
1965 | 尾高賞 | ||||||
1966 | 桐朋教授 | 文化大革命始まる | |||||
1970 | 70年安保、大阪万博 | ||||||
1971 | 芸大修士修了 | 慶大入学 | 台湾国連脱退 | ||||
1972 | 日中国交正常化 | ||||||
1974 | 慶大中退 | 桐朋学長 | |||||
1975 | 尾高賞 | ||||||
1976 | 4月5日民主化運動、9月毛沢東没、文革終結 | ||||||
1977 | 8月文化大革命終結宣言 | ||||||
1978 | 文芸誌『今天』創刊、「回答」掲載※ | ||||||
1980 | 『ドーリアン』 | 『今天』停刊処分 | |||||
1985 | 『朱鷺によせる哀歌』 | 尾高賞 | |||||
1986 | サントリーホール開場 | ||||||
1989 | 昭和から平成へ | 6月4日天安門事件 | |||||
1990 | 『八月の正午に太陽は…』(サントリー音楽財団委嘱) | 『今天』オスロで復刊 | |||||
1991 | 『シンフォニーIV』尾高賞 | ||||||
1993 | 江沢民国家主席~ | ||||||
1996 | 『谺つり星』(サントリーホール10周年記念委嘱) | 尾高賞『Vla協奏曲』 | |||||
1997 | 地球温暖化防止京都会議 | 香港がイギリスから返還 | |||||
1998 | 『悲しみの森』(オーケストラ・アンサンブル金沢委嘱、1999年尾高賞) | サントリー音楽賞 | |||||
1999 | 尾高賞 | ||||||
2000 | 『原爆小景』完成 | ||||||
2003 | 胡錦涛国家主席~ | ||||||
2009 | 『鳥のシンフォニア』(仙台ジュニアオーケストラ設立20周年記念委嘱) | ||||||
2011 | 東日本大震災 | ||||||
2012 | 1月没 | ||||||
2013 | 10月没 | 習近平国家主席~ | |||||
2020 | 新型コロナウィルス発生~ | ||||||
2022 | ロシアのウクライナ侵攻~ | ||||||
2023 | 生誕80年 | 生誕70年 | 没後10年 | 没後11年 |
※林光が題材としたペイタオの詩「回答」
『林光の音楽』を紐解く
作曲家林光(1931-2012)は管弦楽、合唱曲、歌曲、オペラ、映画音楽など多彩なジャンルで膨大な作品を作った。この『林光の音楽』は全作品のうち作曲家が選んだ主要なものを20枚のCDに収め、作曲家本人が折々に書いた解説を集積して付した全集で、2008年に小学館から出版された。解説の冊子は縦組み部分と横組み部分に分かれ、縦組み部分には本人をめぐる対談、インタビュー、エッセイを収録。一方横組み部分にはジャンル別の曲目解説のほか、収録曲一覧と年譜を収録。収録曲一覧は日本語版と英語版があり、別名からの参照も丁寧につけられ、それぞれCD番号と解説ページが案内されている。解説には曲の詳細データ、声楽作品の歌詞、オペラの場面構成などのほか、部分的に楽譜も収録している。最後に演奏家や映画監督の簡潔な紹介も付す。
収録されている作品の数は、数え方にもよるが、管弦楽曲12、器楽曲29、合唱曲12、歌曲・ソング25、劇中歌・校歌35、オペラ2、ラジオ・TV作品4、映画音楽28、合計147作品。別掲の作品リストにはオペラ32、劇音楽285、映画音楽125が挙げられているので、この全集に収録されなかった作品の膨大さが推測できる。
林光の音楽 / 林光著 ; 『林光の音楽』編集室編
東京 : 小学館, 2008.8
131, 276p : 図版 ; 26cm + CD20枚
ISBN 978-4-09-480161-3
目次:■縦組
- 林の光(詩) / 谷川俊太郎…9
【林光、人と音楽】
- 歌ができるまで、詩ができるまで(対談) / 林光、谷川俊太郎…18
- 吉田秀和 林光を語る:音楽の神童(インタビュー)…38
- 新藤兼人 林光を語る:林光の魅力(インタビュー)…46
- 池辺晋一郎 林光を語る:同じ干支のすごい羊(インタビュー)…58
- 光さんの印象づくし(エッセイ) / 福田善之…68
- “音楽”と“運動”の濡れ場(エッセイ) / 白鳥紀一…72
- 光さんと話したこと(エッセイ) / 佐藤信…79
- 光さんとこどもたち(エッセイ) / 尾場瀬理枝子…85
- ハヤシ・ヒカルの革命(エッセイ) / 丘沢静也…89
- ヒカルさん(エッセイ) / 大石哲史…93
- 林さんの「うた」・賛歌(エッセイ) / 斎明寺以玖子…97
- ふたりのモーツァルト(エッセイ) / 田川律…101
- 林光さんに聞く創作の秘密(インタビュー) / 林光、大原哲夫…104
- あとがき / 林光…130
■横組
- 林の光(新曲) / 林光作曲;谷川俊太郎詩…7
【林光の作品】
《収録曲一覧》
- 50音順収録曲一覧…16
- In alphabetical order…20
- CD番号順収録曲一覧
《作品ガイド》
《年譜・資料》
- 林光年譜 / 池田逸子編…240
- オペラ・劇音楽・映画音楽リスト…272
■CD内容
- SHM1-3: 管弦楽曲
- SHM4-7: 器楽曲
- SHM8-10: 合唱曲
- SHM11: 歌曲
- SHM12: 歌曲・ソング
- SHM13: 劇中歌・校歌・その他
- SHM14-17: オペラ
- SHM18: ラジオ・TV作品
- SHM19-20: 映画音楽
■参考
『作曲家の個展'90 林光』プログラム
サントリー音楽財団のコンサート『作曲家の個展'90 林光』のプログラム冊子です。ニッポニカ第43回演奏会では、ここで初演された『八月の正午に太陽は……』を演奏します。この曲は林光の3つめの交響曲で、後に曲名に「第3交響曲」が加わりました。第3楽章に中国の詩人ペイ・タオの詩「回答」の一節の日本語訳に基づく翻案が歌われます。タイトルは1977年8月の文化大革命終結宣言に想を得たペイ・タオの詩「八月の夢遊病者」の一節からとられています。
『交響曲ト調』はニッポニカ第14回演奏会で演奏しました。
作曲家の個展'90 林光:サントリー音楽財団コンサート = Profile of a composer '90 HIKARU HAYASHI : Suntory Music Foundation Concert / 東京コンサーツ編集
サントリー音楽財団、1990.10.23
25x25cm:38p
注記: 演奏会プログラム ; 日時・会場: 1990年10月23日(火)・サントリーホール ; 主催: サントリー音楽財団 ; 協賛: サントリー株式会社 ; 制作協力: 東京コンサーツ;出演: 外山雄三(指揮);志村泉(ピアノ);藍川由美(ソプラノ);東京都交響楽団(管弦楽)
プログラム:
- 交響曲ト調 = Symphony in G (1953)
- Winds = ウインズ (1974; 1982補筆)
- 第2交響曲・さまざまな歌 = 2nd symphony "Canciones" (1985)
- 八月の正午に太陽は…… = At noon, the August sun…… (1990) サントリー音楽財団委嘱作世界初演
目次:
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