ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

島尾敏雄編著『ヤポネシア序説』(創樹社、 1977)

 「ヤポネシア」という言葉は小説家・島尾敏雄の造語で、ラテン語のJaponia(日本)とnesia(島々)を結びつけた言葉。意味するのは「日本」の国を大陸から伝わった文化が主流という従来の硬直した見方ではなく、太平洋の側から見て千島列島から琉球諸島に至る島々の連なりとしてとらえ、様々な方角との交流に目を向ける見方。本書は島尾の論考を中心にまとめられた本で、4つの部分からなる。「I〈ヤポネシア〉の発端」では、1961年から1970年にかけて島尾が書いた「ヤポネシア」に関する文章を掲載。島尾は鹿児島県立図書館奄美分館長として各地で講演の機会に、ヤポネシアについて語っていた。「II〈ヤポネシア〉の波紋」は、島尾の提唱した「ヤポネシア」の概念をめぐって、民俗学者谷川健一はじめ各界の人々による論考を載せている。「III〈ヤポネシア〉の地平」では、西日本新聞社が設けた「あすの西日本を考える30人委員会」」の文化部会で、島尾敏雄を含む九州の文化人5人がまとめた中間報告、最終報告としての提言、そしてそれを評価する西日本新聞の社説を掲載。「IV 深層の日本〈ヤポネシア〉へ!」は、「ヤポネシア」の概念をめぐるこの本のために行われた、島尾と奥野健男の対談を収録。

ヤポネシア序説 / 島尾敏雄編著

 東京 : 創樹社, 1977
 234p ; 19cm
目次: [各記事著者の後ろは初出年月]

I 〈ヤポネシア〉の発端
II 〈ヤポネシア〉の波紋
III 〈ヤポネシア〉の地平
  • 西日本文化創造のために : あすの西日本を考える30人委員会・文化部会中間報告 / 伊藤研之, 荒木精之, 島尾敏雄, 田中艸太郎, 今井滋 [1972.10]…163

 民族の意識の底を探る
 第1章 西日本文化の特色
  1. 九州人の弥生的性格/2. 深層に潜む縄文的なもの/3. 創造的エネルギーの発掘
 第2章 明治百年の半生
  1. 文化の中央集権/2. 地方文化の衰弱/3. 反抗の人びと
 第3章 琉球弧をどうとらえるか
  1. 日本の原型として/2. 「海上の道」として/3. 自分を見る鏡として
 第4章 新しい視点からの展望
  1. ヤポネシアの視点/2. 文化創造の基盤/3. 新しい芽生え

  • 文化創造への五つの提言 : 〈ヤポネシアの視点〉に立って : あすの西日本を考える30人委員会・文化部会最終報告 / 伊藤研之, 荒木精之, 島尾敏雄, 田中艸太郎, 今井滋 [1974.05]…176

 はじめに
 1 方言に誇りを持とう
  生命力を失う標準語/“地言葉”の豊かさ/美しく豊かな日本語めざし
 2 文化施設も遊び場も
  住民のための建物/無形のものにカネ/人間くさい野原も
 3 手と足にいのちを
  奪われた“ゆとり”/手づくりの楽しさ/機械の奴隷になるな
 4 “人”を大切にしよう
  個性尊重の方向へ/画一的な評価を改革せよ/文化投資を怠るな
 5 目を深く広く
  縄文のバイタリティー/異端を拒まず交流を/出発を待つ海上の道

IV  深層の日本〈ヤポネシア〉へ! / 島尾敏雄奥野健男…197

 ヤポネシアという呼び名/倭・蝦夷熊襲・隼人/琉球弧・千島弧・本州弧など/沖縄文化の境位/深層の日本へ/北方的要素と南方的要素/大陸・東南アジアとの関連で/縄文文化という根底からの照射/消された東北の歴史/倭的と非倭的なもの/“ヤポネシア”の地平/太平洋、海原からのまなざし

あとがき / 島尾敏雄…232

執筆者のプロフィル

(参考:島尾敏雄ほか『ヤポネシア考』葦書房、1991)