ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

ナディア・ブーランジェの言葉

 ナディア・ブーランジェ(1887-1979)との対談をまとめた『ナディア・ブーランジェとの対話』(原著は1981年刊)の中に、アメリカ音楽についての彼女の発言がありました。

新大陸から
 確かに大勢のアメリカ人を育てました。今から僅か50年ほど前には誰もアメリカ音楽の存在など知らず、そんな名称すら用いなかったことも、すでに忘却の彼方です。その後、状況は一変してしまい、今日ではコープランド氏はロンドンやパリにまで棒を振りにやって来ますし、バーンスタイン氏は指揮者であると同時にその作品が世界中で演奏されています。
 「アメリカ人音楽家」という名称はもはや物珍しいものではなくなりました。以前、彼らが無名で脚光を浴びなかったのには、それなりの理由があったのです。つまり大勢の外国人音楽家アメリカに移住してきましたが、実際にその地で培われた音楽教育を受けて育った音楽家は一人もいなかったのです。こうした現状には政治、宗教、人種問題などが絡んでいます。そのためアメリカの芸術文化は、他と比較して発展の遅れを取っているのです。
 その雑多な寄せ集め文化は、際立った音楽的才能を持つ黒人たちがまずアメリカにもたらしたポップ・ミュージックの流行となって登場しましたが、彼らとて、その多くは生まれながらにアメリカ人であったわけではないのです。(中略)
 アメリカの黒人からの音楽的遺産は、常に植物の生育に不可欠な腐葉土的本質を成してきたのです。
 アメリカは、根のないままに非常に進んだ文化を開花させるに至ったのです。すなわち、根と成果を同時にもたらす必要があったのです。そしてアメリカは今日、その使命を十分に果たしたと私は思っています。(p144-145)