ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

永井荷風の日記

 先日の練習の時となりのおじさんビオラが「永井荷風の日記に菅原明朗といっしょに宅孝二がでてくる」というような話をしていました。手元の本に永井荷風(1879-1959)の日記について次のようにあったのを思い出しました(作曲家は出てきませんが)。

 永井荷風は太平洋戦争が始まった時、すでに老大家だった。昭和12年(1937)に発表された荷風の最新作『墨東奇譚』は一般読者から熱狂的に受け入れられ、批評家たちは荷風の傑作として絶賛した。しかし同年に起った支那事変によって、政府は国民の戦意を昂揚しない(荷風の小説のような)作品の出版を思い止まらせるか、全面的に阻止する指令を出した。出版社はこうした指令に脅え、一世を風靡する流行作家だった荷風の新作は、戦時中ほとんど姿を見せなかった。(中略)
 戦時中の荷風の主たる文学的活動は、大正6年(1917)からつけている日記を書くことだった。荷風はこの日記を、どこへ行くにも(預金通帳と一緒に)持ち歩いた。荷風の作品を読んだことのないような人々でも、こういうちょっとした噂は誰でも知っていた。また荷風はあまり写真を撮られなかったが、例外は浅草の踊子たちと一緒の写真だった。こうした評判のお蔭で、戦時中の荷風は警察の眼には害のない年寄りの奇人と映っていた。警察は荷風を尋問することがなかったが、荷風の日記のほとんど各ページにわたって軍部に対する反感が語られていた。
出典:ドナルド・キーン著、角地幸男訳『日本人の戦争:作家の日記を読む』(文芸春秋、2009)p9-10

 キーンさんの本はこちらにもあります。
ドナルド・キーン著『戦場のエロイカ・シンフォニー
http://d.hatena.ne.jp/nipponica-vla3/20110930/1317383360