ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

早坂文雄とピアニスト務川慧悟さん

高橋アキ早坂文雄:室内のためのピアノ小品集

ニッポニカ第40回演奏会が24日に終わりました。いろいろ新たな発見のあったコンサートでしたが、嬉しかったのは早坂文雄『ピアノ協奏曲』のソリスト、務川慧悟さんのアンコールでした。

5月27日に務川さんが出演された日フィルの演奏会に行き、伊福部昭『リトミカ・オスティナータ』を聴きました。その時のアンコールはバッハのフランス組曲を暗譜で弾かれましたので、ニッポニカでもそういうお得意の曲を弾かれるのかと思っていました。実際昨日のステージリハーサルの休憩時間には、ラヴェルの小品など暗譜で弾かれていましたし。

ところがコンチェルトの本番が終わり、鳴りやまない拍手に応えて再登場された務川さんは、持参された楽譜をピアノに置かれました。見慣れた全音の楽譜でした。小品を2曲続けて演奏され、再び万雷の拍手に会場が包まれました。早坂文雄ピアノ曲だろうかと思いましたが、確信はありませんでした。

帰宅して早速務川さんのウェブサイトを見ると、ニュースとしてアンコールの曲目がもう掲載されていました。それによると、「早坂文雄作曲、室内のためのピアノ小品集より第12番、第14番」とあります。やはり早坂の作品でした。

今度はCDの棚を捜すと、高橋アキさんが弾かれた「早坂文雄:室内のためのピアノ小品集」(カメラータ・トウキョウ CMCD-28061)があるではありませんか。何度か聴いたことがあるのに、曲名までは頭に入っていなかったのでした。しかし活字中毒の私はまずライナーノーツを開いて、片山杜秀さんの曲目解説をじっくり読みました。

作曲は1941年、太平洋戦争に突入した年です。どちらかというと静謐なこの曲集を生み出した作曲者の心のうちを想像します。初演は1942年に藤田晴子、1938年に毎日音楽コンクールピアノ部門1位の藤田晴子です。戦後東大を出て国立国会図書館に務めた藤田の、戦前の活躍でした。そして1943年に新興音楽出版社から出版された楽譜は、国立国会図書館デジタルコレクションに収蔵されています。

その後長く忘れられていたこの曲集を、1999年に高橋アキが演奏、2002年に全音から新たな楽譜が出版、そして2003年にカメラータ・トウキョウから高橋の演奏でCDが発売されたのです。高橋は「21世紀に伝えたい20世紀の音楽」というアンケートに応えて、この曲集を挙げているのでした。若い務川さんがよくぞこの曲集をアンコールに選んで下さったものだと思いました。