ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

能『綾鼓(あやのつづみ)』

 小杉作品リハーサルの会場で「綾の太鼓の綾って何ですか」と聞かれました。綾は綾織の布のことで、要するに皮のかわりに布をはった太鼓で、音がでるわけがないのであります。

 ところで「綾の太鼓」の台本の最初には、「狂言方出て、能の「綾の鼓」の「間狂言」」とあります。そこでまずは能の『綾鼓』を調べてみました。能楽研究者・野上豊一郎が出した『謡曲選集 : 読む能の本』に「綾鼓」が載っていましたので、概要を抜粋して拙訳の現代語で載せます。構成は第一幕が七場面(三がなぜか2つ)、間(狂言)、第二幕が三場面からなります。シテは主人公、ワキは脇役、ツレは連れられて登場する人物、アヒは進行役(狂言方)、です。

■「綾鼓(あやのつづみ)」(怨霊物) / 世阿弥

  • 登場人物:ツレ(女御)、ワキ(臣下)、アヒ(下人)、前ジテ(老人)、後ジテ(老人の怨霊)
  • 場面:筑前(現在の福岡)・木の丸殿
  • 季節:秋

第一場 筑前・木の丸殿
 女御登場

 名乗笛で臣下登場
臣下:私は筑前の皇居に仕える臣下であるが、ここの庭掃きの老人が、女御の姿を見て恋慕ってしまった。女御は不憫に思い、桂池の木の枝に鼓をかけ、老人が鼓を打ってそれが皇居に聞こえたなら、姿をみせよう、このことを老人へ伝えよ、と申しつけられた。



臣下:誰かいるか。
下人:ここにおります。
臣下:いつもの庭掃きの老人を呼びなさい。
下人:かしこまりました。



下人:庭掃きの老人よ、伝えることがあるのでこちらへ来なさい。



 老人登場
臣下:老人よ、女御は汝を不憫に思い、桂池の木の枝にかけた鼓を打ち、それが皇居に聞こえたら姿を見せようとのことである。急いで鼓を打ちなさい。
老人:かしこまりました。それでは鼓を打ちましょう。
臣下:(臣下は老人を伴って移動)この鼓なので急いで打ちなさい。



老人:桂の名木にかかる鼓を打ちましょう



老人:思いを伝えようと鼓を激しく打つが、綾の鼓は少しも鳴らない。



老人:鼓の音が伝わればかの人の姿が見えると鼓を打ってみたが、綾の鼓は少しも鳴らない。それでは池の水に身投げをしよう。(退場)



下人:庭掃きの老人は綾の鼓を打って思いをかなえようとしたが、鼓は少しも鳴らず、それを嘆いて老人は桂の池へ身を投げてしまいました。
臣下:何と老人は鼓の鳴らないことを嘆いて桂の池へ身を投げたというのか。
下人:そのとおりです。
臣下:それではそのことを申し上げてこよう。


第二場 同上

臣下:申し上げます。かの老人は鼓の鳴らないことを恨み、桂の池へ身を投げ死んでしまいました。どうぞご覧ください。
女御:あの波の打つ音が、鼓の音に似ているのはどうしてでしょう。あら面白い。
臣下:女御は不思議なことをおっしゃる。気がおかしくなったのであろうか。



老人の怨霊:池の藻屑となった老人は、恨み歎きから鬼になった。鳴らぬ鼓の音をたてよとは、心を尽くして死ねとのことか。



老人の怨霊:池の木にかかった鼓を打ち続け、池に身を投げた身は死霊となり、女御に憑き祟り、身の毛もよだつ悪蛇となり、女御に恨めしやと言い立てた。
 老人の怨霊退場。女御、臣下退場。

  • 参考資料:野上豊一郎編『謡曲選集 : 読む能の本』(岩波文庫、1935)

参考