ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

武満徹・芥川也寸志『太平洋ひとりぼっち』その2

 芥川也寸志(1925-1989)が没した翌年に出版された『芥川也寸志:その芸術と行動』では、武満徹秋山邦晴が『太平洋ひとりぼっち』に触れています。

武満徹の語る『太平洋ひとりぼっち

 武満徹は「芥川也寸志と映画音楽」と題して次のように書いていました。『太平洋ひとりぼっち』の部分を抜粋します。

 芥川也寸志は、生涯、概そ、百本近い映画に作曲している。けっして少ない数ではない、私は、その全部を聴いたわけではないが、そのうちの十本ほどに、アシスタントとして、実際に関わった。その中で、特に忘れられない仕事は、1963年に製作された、市川崑監督の『太平洋ひとりぼっち』である。この映画では、共作という形で、芥川也寸志音楽監督を務め、私が作曲に当たった。この経験から作曲家として得たものは大きく、また芥川也寸志の人格から受けた影響も少なくない。私自身は、未だ、映画音楽の経験に乏しかったので、教えられることばかりだった。場面とそれにフィットするオーケストラのサイズ。また、遠景であるか近景であるかによって、作曲への指示は同じ旋律動機を用いても、かなり異なった。それに応えるのは未熟な私には難しかった。幾夜も徹夜が続いた。音楽録音の際に必要な、楽器編成表や、ロール表を、丹念に色分けして作ったりしていた。作曲された音楽が、芥川氏のオーケストレーションで生きた響きをえ、映像と合わせられて、私は、やっと芥川氏の意図を、実際に、理解できたのだった。
 『太平洋ひとりぼっち』では、主人公の、石原裕次郎扮する堀江青年が、孤独と疲労の果てに、妄想に悩まされる場面がある。具体音楽(ミュージック・コンクレート)の手法で作曲すべきだろうと提案したのは芥川也寸志だった。その当時、私は、具体音楽を主に仕事をしていたので、事情を識ったひとは、当然、それが私のアイディアだと思ったようだ。だが実際には、そこで使われた具体的な音響、鋏や鎖の音等の材料は、すべて芥川の示唆によった。

出典:『芥川也寸志:その芸術と行動』(東京新聞出版局、1990)(p193-194)

秋山邦晴が語る『太平洋ひとりぼっち

 秋山邦晴は、「芥川也寸志の映画音楽に関する小論」を書いています。その「<太平洋ひとりぼっち>での武満徹との共作」の項目では、作曲された映画音楽の特徴を詳しく述べているので一部をご紹介します。

 ここでは全体に大きなオーケストラ編成で、まるでアメリカ映画の壮大な音のひろがりと流麗なメロディーの流動といった要素がみられ、いかにも、いわゆる映画音楽らしさをもっているとそこに感じる人も多いのではないだろうか。
 このほかにも弦楽合奏、オーケストラの中の特色あるサックスなどの表現、ブルース的、ジャズ的なものをおもわせる音楽、こうした音楽が断片的に巧みに使われたりもするが、いっぽうではその現実音の表現というものがたいへんに興味深いのだ。
 (中略)芥川也寸志がこころみてきた音楽と現実音をひとつにした音の演出が、ここでは武満徹の緻密な感性と一体になって、じつにみごとに駆使されている。海のシーンにやたらに波の音をいれたるするこれまでの日本映画の“エフェクト”とは、まったく異なったユニークな音の演出がここにはみられるのだ。

出典:『芥川也寸志:その芸術と行動』(東京新聞出版局、1990)(p258-259)

 なおこの本を編纂した「出版刊行委員会」には、作曲家だけでなく芥川也寸志の関係した幅広い分野から34人もの方々が名を連ねていて、代表は秋山邦晴です。

■参考