ニッポニカでは日本人作品を演奏することが多いですが、第31回演奏会ではヒンデミットの作品も取り上げました。その『気高い幻想』の楽譜は市販でなく、レンタル譜です。ショット社から取り寄せたパート譜には、黄色いしっかりした表紙がついていました。ページを開いてみると、かすかに酸っぱいにおいがします。これは、使用している紙が酸性紙だと思われるためです。
この楽譜の印刷年ははっきりしませんが、作曲初演が1938年、楽譜に書かれたコピーライトは1940年となっているので、その頃の印刷であれば、酸性紙がまだまだたくさん使われていた時代のものです。酸性紙問題の対策が取られ始めたのは、欧米では1960年代以降、日本では1980年代以降です。
酸性紙とは、紙が酸化したのではなく、もともと製紙段階で紙に酸が含まれているものです。その酸が、時間の経過とともに紙を劣化させています。1940〜50年代ころは戦争の影響もあって紙の質が悪く、そのころに印刷出版された書籍は世界中で劣化が進んでいます。これに気が付いた多くの出版者や図書館などでは、酸性紙の脱酸化をすすめる様々な対策を講じているのです。
ヒンデミットのパート譜は、製本はしっかりしているし、紙の劣化も特に見当たりません。ショット社は酸性紙問題にしっかり取り組み、劣化の進みにくい保管庫でとてもきちんと保存されていたと考えられます。劣化がひどければとっくにぼろぼろになっていますので。今回の演奏に際してはできるだけ劣化がすすまないよう、気を付けて楽譜を取り扱うことにしています。
7/30の第31回演奏会では、どうぞヒンデミットの楽譜にもご注目ください。
■酸性紙についての参考サイト
- 酸性紙問題とは?〔株式会社TTトレーディング〕
http://www.tokushu-papertrade.jp/digimon/con_basic/con-bas02.html - かわいそうな楽譜とこわれていく本(PDF)
〔国立音楽大学附属図書館〕
https://www.lib.kunitachi.ac.jp/tenji/2004/tenji0501.pdf - 楽譜で読む都響の50年
〔東京都交響楽団〕
https://www.tmso.or.jp/50th/column/music.php