ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

三輪郁ピアノリサイタルでトリスタンを聴く

 三輪郁さんのピアノリサイタルを聴きました。前半のベートーヴェン3曲もよかったですが、後半のリヒャルト・シュトラウス、特に『薔薇の騎士』のワルツはウィーンの香りたっぷりで堪能しました。そして白眉はワーグナー=リストの「イゾルデの愛の死」!
 トーマス・マンの長編『魔の山』はスイスのサナトリウムを舞台に物語が展開し、クライマックスは入院患者の女性がこのオペラ『トリスタンとイゾルデ』の全曲ピアノ・リダクションを弾く場面。他の患者は皆散歩に出かけてしまい、観客は主人公ハンス・カストルプただ一人。第一次大戦前夜の喧噪うずまく外界から隔絶したサナトリウムの中に、ロマン派の極致の音楽が鳴り響くというものです。今日はまさにトランプ旋風うずまく外界を背に、ハンス・カストルプの気分で三輪郁さんのピアノを聴いたのでした。漆黒のグランドピアノにBösendörferの金文字が浮かび上がるごとく、黒地に金の刺繍が舞うドレスに身を包んだ郁さんは、見事な解釈でワーグナーの世界を舞台に描いていました。最後の一音まで緊張が持続され、優美に響き渡る円熟の音楽を味わうことができました。

三輪郁 ピアノ・リサイタル
2016年11月9日(水)19時開演 東京文化会館小ホール
プログラム:
ベートーヴェン

R.シュトラウス

  • 4つの情緒ある風景op.9
  • 楽劇「ばらの騎士」op.59より コンサート用ワルツ(O.ジンガー編)

ワーグナー=リスト