ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

菅原明朗の聴いたピッツェッティ

 1940年12月に歌舞伎座行われた「紀元二千六百年奉祝楽曲演奏会」では、ピッツェッティの『交響曲イ調』始め4曲が演奏されました。菅原明朗はこの演奏会を聴きに行き、さらにその後に出された録音レコードも聴いています。菅原の評論集には「奉祝レコードを聴くの記」という記事が載っていて、演奏会での印象は4曲ともつまらなかったが、レコードで聴くと全部が面白い、と書かれています。ピッツェッティの曲についての部分をご紹介します。

奉祝レコードを聴くの記(『音楽世界』1941年3月)
 ピツェッティ。日本人には彼の交響楽が長過ぎたようである。日本人が彼のような長い音楽の伝統を背負っていないからであろう。かつて私がイタリア新進の作家として知った彼は既に六十歳の大家である。私はこの曲に学ぶ幾多のものこそあれ批評すべきものを持っていない。この曲はたしかに長い。それは長くなるべき内容を持っているからである。日本人はワグナーのクロマティズムやオネッガーのポリトナールに驚いたようにはピツェッティのディアトニズムに驚かないようである。クロマティズムやポリトナールは日本の伝統にないからである。そしてディアトニズムが我々の音楽の伝統だからである。日本人は近しいものには驚かない、遠距離崇拝民族である。イベールが現われないのも、ショスタコウィッチが現われないのもこの故かも知れない。

出典:菅原明朗評論集『マエストロの肖像』p202
http://d.hatena.ne.jp/nipponica-vla3/20151221/1450675253

クロマティズム(chromaticism) 半音階の[音楽]
ポリトナール(polytonal)多調の[音楽]
ディアトニズム(diatonism)全音階の[音楽]

参考:紀元二千六百年奉祝交響楽演奏会
http://d.hatena.ne.jp/nipponica-vla3/20151031/1446301738