ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

三善晃『遠方から無へ』から(4)東大生

 三善晃(1933-2013)は1951年東京大学文学部仏文科に入学。東大仏文科といえば、小林秀雄(1902-1983)、今日出海(こん・ひでみ、1903-1984)、中島健蔵(1903-1979)、大江健三郎(1935-)などなどの卒業生が浮かびます。もっとも三善は文学より音楽に浸っていたようです。

病葉(わくらば)の季節
 入学しても、自分が将来、何をするのか、皆目わからなかった。たぶん、自分は何でもするだろう、でも、それは自分が、どうしてもせずにいれないことか、何をしないではいられないか。
 二年目の春も、ピアノのある部屋に閉じ籠って、音をさぐる、夜も昼もない何か月を過ごした。一年前にも同じことをしたのだったが、その何か月か経った初夏のある夜、ある事を仕損ねて、籠城は中断してしまった。あること、が何であったか、書けない。二度目のこの年には、一つの室内楽をやっと仕上げた。毎年六月末日が、あるコンクールの作品提出期日だった。(p190-191)

出典:三善晃著『遠方から無へ』(白水社、1979)