ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

『笛吹き女』現代語訳

 深尾須磨子の『笛吹き女』は副題に「候調十二章」とあり、格調高い言葉が連なっています。旧仮名旧漢字で今はあまり使わない言い回しもあるので、現代語訳を作ってみました。

深尾須磨子「笛吹き女」 現代語訳

 1
笛を吹きます
笛を吹いて悔います
笛を吹いて祈ります
笛を吹いて生きます
 2
30センチほどの竹製の
たよりない手作りの笛です
ただほんのお遊びで
笛を吹いている子どもなのです
 3
笛を吹きます
笛は銀
急流を泳ぐ初鮎のようです
音は紫色の秘密なのです
 4
笛を吹きます
笛はまこと
笛は神
まずお祈りしなくては何もおっしゃいません
 5
笛を吹けば 
子犬は立ち止まります
すずめは踊ります
壁は耳を傾けます
 6
笛を吹いていても
物売りの声が聞こえてきたら
ぱったりと 吹き止めます
そのうちにまた吹き始めます
 7
ひゅひゅらひゅひゅらと
吹いているのはひとりぼっちの笛です
ああ いつの間にか
ピエロは涙を忘れました
 8
寂しいわ
哀しいわ
むなしいわ
それでも笛を吹きます
 9
哭(な)きなさい
ただ哭きなさい
哭き疲れたら笛を吹きなさい
希望はこの笛だけにあるのです
 10
人の思いを吹き込んでは
いよいよ戯(たわむ)れのふりをして
名前も身もみなどうでもよくて
笛に仕えてただただ吹きます
 11
笛を吹いたなら
春になるのです
笛を吹いて雲の橋を渡れたなら
笛を吹いて天の戸を驚かせられたなら
 12
リラの香りを笛の音にこめて
今宵は異国風の牧歌を吹きます
酔いなさい
異国風の月がすてきです

この現代語訳を転載される場合には、「出典:ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ 2013-11-10 https://nipponica-vla3.hatenablog.com/entry/20131110/1384049371」の様に記載ください。