ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

山田一雄『一音百態』「うぶな少年の失恋」

 東京音楽学校の分教場でピアノを勉強しつつ、同時に、梁田貞先生の成城(世田谷区)のお宅にも通って、声楽のレッスンを受けるようになった。
城ヶ島の雨』や『どんぐりころころ』などの作曲者として知られる梁田先生は、東京音楽学校で教鞭をとられる高名な声楽家でもあった。
 この梁田邸で、すばらしい女性に出会う。彼女も、わたし同様に音楽学校を目指すレッスン生。声楽家志望だけに、その声の魅力的なことときたら――。応接間でレッスンの順番を待っていると、彼女の透明感に満ちた美しい歌声が聞こえてくる。そこには、いまだ未完成ながらも豊かな情感と知性が漂う。音楽の神の微笑を一身にうけている。彼女もそんな人間の一人に違いなかった。
『一音百態』p80より)

 この片思いははかなくも散り去ったのでした。なお梁田貞(やなだ・ただし、1885-1959)は北海道札幌出身の作曲家、音楽教育家。『日本の作曲家』(日外アソシエーツ、2008)の解説によると、『城ヶ島の雨』は作詩の北原白秋の原稿が遅れたため、発表会前日の夜に作曲したものだそうです。