ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

山田一雄『一音百態』「震災と“暴動”の恐怖」

 1923年9月1日11時58分、関東大震災。11歳の和男少年は、代々木の自宅にいました。

 あの時わたしは、昼食の支度をする母の周りやカマドのそばをウロチョロして、台所で遊んでいた。と突然、メチャクチャで、自分がどこにいるのか、何が何だかわからない激しい衝撃に、はだしのまま、勝手口から転げ出た。庭の大きな樹木が、枝という枝を揺るがせてザザーッと不気味にうなり、今にも倒れてきそうだ。
 ――どうしたらいいんだ……何でもいいから、どこかにつかまっていなくては――
 やっとの思いであたりを見回すと、母が必死で祖母をかばいながら、わたしたち兄妹の名前を呼んでいる。その声を頼りに、わたしは庭をはいずるようにして、家の外へ避難した。しかし、そこも安全とはいえなかった。わが家の横を流れる小川に、屋根がわらがビュンビュン飛んでいく。紙飛行機みたいに、どんどん飛んでは、落ちていく。茫然と、わたしはその様子を見ていた。
『一音百態』p50-51より)

 火事は免れたものの余震の続く中で不安な一夜を明かしました。数日後に伝わってきた暴動デマにおびえました。