ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

山田一雄『一音百態』「“小箱”に魅せられて」より

 1919(大正8)年に学習院の初等科に入学し、代々木の自宅から学校のある四ツ谷まで3人の兄たちといっしょに電車で通い始めました。同級生は皇族・華族の子息がほとんどで、ケンカのときでも敬語を使ってワイワイやっていました。同級の徳川家英さんの千駄ヶ谷にある広大なお屋敷に遊びに行った時、美しい小箱を発見しました。贅を尽くした彫り物が施されていて、静かにふたを開けると、すばらしい音楽が部屋中にあふれました。

 小箱からは、まるで天女の舞いのように、この世のものとは思えない響きが流れてくる。子供心にも、わたしはこの“天上の美酒”に酔いしれ、心を奪われるままに聴きほれていた。
 あの美しい響きは、おそらく外国製のオルゴールの音色に違いない。一九世紀半ばのフランスの作曲家・ベルリオーズは、ロシアに招かれて音楽会を開いたおりに、時の大帝からオルゴールを賜った――と聞いている。こうした話が残るほどに、オルゴールは古くから大人の「遊びの小箱」として珍重され、製造技術も西洋は一段と進んでいたのである。
 徳川家で出会ったオルゴールも、何度も何度も繰り返し、いつまでも聴いていたいほどに、すばらしい響きをしていた。わたしは、未練たっぷりの思いで小箱の蓋を閉じたことだ。(『一音百態』p41-42より)