ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

山田一雄「白髪とマーラー」

  『一音百態』よりマーラーについて。

 さて、罪つくりなマーラーさんは、ここ十年来「マーラールネサンス」と呼ばれて、再び人気が高まってきている。彼の曲は、豊饒な響きの中に、純真と執拗、平凡と独創、悪魔的と天国的、幼心と巨人的なものなど、あらゆるものが、豪華なつづれ織りのように交錯している。そして、それらがたぐいなき真剣さで包括された大きな宇宙をもっているから、マーラーという山路に迷い込んだが最後、人々はなかなかどうして逃げきれない。豊かな音色たちの交錯と人間表明の深い呼吸――。そこにはまた、近代人の知性と矛盾、苦悩と弱さをもさらけ出されている。ここに現代の人々は、マーラーが生きた十九世紀末のヨーロッパをにおける「精神的絶望感」と、今また世紀末の「核による悪魔の終末的光景」をクロスオーバーさせて、何かを感じとるのだろうか。
 石ころのような夢のない現代の世相では、ますますファンは増えるだろうし、わたしにとっても、マーラーは、「共感できる一番近い人」という思いが深い。また、1911年のマーラーが没した翌年に、わたしはこの世に生をうけたという奇しき巡り合わせからか、何やら大げさめくけれど、「マーラーの“生まれ変わり”のようだともいわれたりして、より親しみを感じるのである。(p24)