今朝(3/20)の日本経済新聞文化欄は、「芸術の力信じる:日本の友人に深い思い込め」と題する、指揮者ズービン・メータ氏からのメッセージでした。フィレンツェ歌劇場の日本公演で来日していた氏は、13日(日)神奈川県民ホールでプッチーニ『トスカ』を、14日(月)に上野の東京文化会館でベルディ『運命の力』を演奏しました。その後歌劇場の母体であるフィレンツェ市から帰国命令がでて止むを得ず公演を中止。日本の音楽ファンへのメッセージから最後のところをご紹介します。
危機的状況に陥った人々の前でも、音楽は力を発揮できると思う。さすがに豪奢なオペラは難しいが、より抽象的で純粋な音楽作品、たとえばJ.S.バッハのカンタータやベートーベンの「英雄」交響曲、モーツァルトの交響曲第40番といった作品が持つ力、悲劇的状況下の人々に放つメッセージの強さを過小評価してはならない。
91年に湾岸戦争が起きた時、ニューヨーク・フィルとの日程をすべてキャンセルして現地に飛び(長く音楽監督を務める)イスラエル・フィルと連日、無料演奏会を開いて回った。
今の東京よりも電力事情が悪い中で、昼間なら照明なしで演奏できると判断し、リハーサルなしで多くの交響曲を日替わりで奏で人々を鼓舞した。最後の曲目はマーラーの「復活」交響曲だった。演奏者も聴衆も全員一丸となり、精神を飛翔させることができたのは得難い体験だった。今の日本にも音楽の力で人々を励ます場面が絶対に訪れると信じている。(談)