ニッポニカ・ビオラ弾きのブログ

芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカのビオラ弾きのブログです

伊福部昭『寒帯林』とゲーテ

昨日打ち合わせの会合の際、『寒帯林』がなかなかいいねという話でもりあがりました。音楽そのものもいいのですが、曲の構成もすばらしいです。第1楽章「うすれ日射す林」は、広大な寒帯林の中で風の音や動物の動く音などが聞こえるところに、木漏れ日がさし込んできます。第2楽章「杣の歌」では、人間が登場、それも自然と一体となった「きこり」が民謡風ののびやかな歌を歌います。そして第3楽章「山神酒祭樂」では、大勢の人たちがにぎやかに踊り楽しみます。
ここまで書いてきて、ふとゲーテの『旅びとの夜の歌』を思い出しました。こちらは最後まで静かな詩ですが、同じように自然の中で遠景から近景に視線が移っていきます。対象も自然→植物→動物→人間と移ります。

Wandrers Nachtlied    旅びとの夜の歌

Ueber allen Gipfeln    山々の頂に
Ist Ruh,             憩いあり。
In allen Wipfeln       木々のこずえに
Spuerest du          そよ風の気配もなし。
Kaum einen Hauch;
Die Voegelein schweigen im Walde. 森に歌う小鳥もなし。
Warte nur, balde          待てよかし、やがて
Ruhest du auch.           なれもまた憩わん。


Johann Wolfgang Goethe, 1780   高橋健二


出典 原詩:Gedichte / Johann Wolfgang Goethe (Reclam, 1969)
    訳詩:ゲーテ詩集 / 高橋健二訳 (新潮文庫 1967)

伊福部先生が北大でゲーテ(1749-1832)を読まれたかどうかはわかりませんが、帝大出身者の多くはこの詩に親しんでいたことと思います。
なおこの詩に旋律をつけたものは以下の作品があります。
シューベルト(F.Schubert, 1797-1828) 歌曲『さすらい人の夜の歌 山々に憩いあり』作品96の3 D.768, 1824頃
・リスト(Liszt F., 1811-1886) 歌曲『山々に憩いあり』1848頃
・ハウプトマン(M.Hauptmann, 1792-1868) 合唱曲『さすらい人の夜の歌』
(出典:クラシック音楽作品名辞典 改訂版